ナチスの大量虐殺で「国を持たないと殺される」

例えばウィリアム・シェイクスピアの『ベニスの商人』では、ユダヤ人は貸金業を営むシャイロックのような悪役として描かれています。『ベニスの商人』はユダヤ人にとっては侮辱的な内容の戯曲です。

そうした何百年にも及ぶ不当な差別、迫害が続き、ついには国家による組織的な大虐殺も経験することになります。言うまでもなく第二次大戦中のナチス・ドイツによる大虐殺、いわゆるホロコーストです。

およそ600万人ものユダヤ人が殺されてしまいます。安易な比較はできませんが、これは第二次大戦中の日本の戦死者のおよそ2倍の数に相当します。ヨーロッパにいたユダヤ人の3人に2人が殺害されるというすさまじい大虐殺でした。

第二次大戦におけるドイツの敗北でホロコーストは終わりますが、ユダヤ人たちは、長年の迫害とホロコーストを経て、「自分たちの国を持たないとユダヤ民族は生き残れない。身の安全は守れない」と強く決意したのです。

この決意と、ホロコースト前からユダヤ人たちの間で広がっていたシオニズムという思想が結実し、第二次大戦後、ユダヤ人国家の建設へ向けた動きが加速していきます。シオニズムは、1896年にウィーン出身のユダヤ人ジャーナリスト、テオドール・ヘルツルが、著書『ユダヤ人国家 ユダヤ人問題の現代的解決の試み』(佐藤康彦訳、法政大学出版局)を出版し、政治思想として確立されました。

「聖書に書かれた土地」には、アラブ人が住んでいた

ヘルツルは、フランスの陸軍大尉アルフレッド・ドレフュスが、ユダヤ人であるという偏見によりスパイの嫌疑をかけられ、終身刑にされたことに衝撃を受けます。ドレフュスは最終的には無罪となりましたが、この「ドレフュス事件」はユダヤ人社会に大きな衝撃を与えました。

ヨーロッパ社会に居場所を見出みいだしたはずでしたが、「やはり自分たちは国を持たなければ、周囲の偏見から身を守ることができない」と痛感させられる出来事だったのです。

そんなユダヤ人たちが建国の地に選んだのが、パレスチナでした。自分たちの祖先たちが住んでいた土地であり、“神がユダヤ民族に与えた土地”です。つまり“聖書に書かれた約束の地”という、ユダヤ人にしか通用しない物語が利用されました。

当時のパレスチナには多数派のアラブ人が住んでいたわけですから、彼らとすれば勝手な都合でそんなことを決められるのは迷惑極まりない話です。しかし、ユダヤ人たちはイギリスなど当時の強国の力を利用し、そこに自分たちのユダヤ国家を打ち立て、安全を確保するしかないという考えを明確にしていったのです。