純資産を新たなキャッシュを生み出す資産に投じて、その資産から得られたキャッシュで元手の純資産を増やし、さらに違う資産に投じていく好循環を作り出していくことが、会計思考の基本的な考え方です。資産とともに純資産がとても大切なのですが、家計思考では資産がないため、収入源はもっぱら「労働」にたよることになります。住宅を購入する原資は、労働の対価として得られる報酬しかありません。足りなければ、住宅ローンという負債で調達することになります。

新たなキャッシュを生み出す思考

バブル経済が崩壊する以前、日本のビジネスパーソンは「終身雇用」「年功序列」「企業内労働組合」という「3種の神器」に守られて、定年まで着実に賃金がアップしていきました。つまり、家計思考における「ほぼ唯一の収入源=労働」に対して不安を抱くことはありませんでした。しかし、そうした労働環境は激変し、終身雇用と年功序列は消滅しかかっています。リストラで職を失い、資産が目減りしていくことだって十分にあり得る状況です。

職を失って収入を得る道が断たれたら、早晩、住宅ローンの支払いが滞り、住宅を売却して返済に充てるか、資金繰りがつかなくなって会社が倒産するのと同じように「住宅ローン破産」するしかなくなってしまいます。そうならないためにも、家計思考から会計思考へ転換し、新たなキャッシュをもたらす資産に投じ、先に触れたような好循環を作り出していくことが、とても重要になっているのです。

では、どうしたらいいのでしょう。私はビジネスパーソンの皆さんも「商売人としての人格」を持つことをお勧めしています。私が子どもの頃、八百屋さんに行くと店のなかにザルが吊るしてあって、お客さんが支払ったお金をそこに入れ、お釣りをその中から出していました。

たまに八百屋さんの子どもが「何かおやつがないの」とねだると、「これで何か買ってきな」と言い、ザルの中のお金を手渡していました。これは文字通りお金を考えなしに使ってしまう「ザル勘定」であり、本当の商売とはいえず、「家業」にとどまります。

こうした八百屋さんが商売人としての人格を持つためには、レジを導入してお金の出入りを正確に把握するとともに、家計との線引きを行ないます。そして、新たなキャッシュをもたらす資産にどれだけ元手を投じているのかをチェックしていきます。「資産を介してお金にお金を儲けさせる」というのは、商売人の鉄則の一つです。

ビジネスパーソンも、家計を単なる消費の場ではなく、商売の場として捉え直しましょう。そして、そこからどうやって新たなキャッシュを生み出していくかを考えていくのです。それを習慣化することで、商売人としての人格が身に付き、家計思考から会計思考への転換も進んでいくようになっていきます。

(構成=伊藤博之 図版作成=大橋昭一)
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