シリコンバレーの覇者はオタクから「マッチョ」へ
ところでシリコンバレーといえば、その土台を作り上げたマイクロソフトのビル・ゲイツ氏や、アップル創業者の故スティーブ・ジョブズ氏などを思い浮かべるのではないだろうか?
彼らのような、英語で「nerd(ナード)」と呼ばれるテック・オタクは今でもたくさんいて、多くが中道から左派だ。
しかしシリコンバレーを牛耳るのは、今やVCを中心とするテック・ビリオネアだ。仮想通貨やAIなどに唸るような巨額の金が注入されるようになった今、シリコンバレーはかつての金融業界のような、一攫千金のアメリカンドリームをめざすエリート男性が集まる場所に変化しつつある。
彼らが求めるのは金や権力だけではない。筋肉を鍛えてマッチョになり、高級車を乗り回し女を手に入れる――それが新たなシリコンバレーの文化だという人もいる。しかもスタンフォードやMITなど一流大出身の白人男性を中心とした学閥社会で、人種差別や女性蔑視もひどいという批判の声も少なくない。
こうした価値観は「toxic masculinity(有害な男らしさ)」と呼ばれる。トランプ元大統領はその代表格と言われてきたが、そのDNAは副大統領候補のヴァンス氏にも受け継がれたようだ。
「ハリスは孤独で惨めなキャットレディ」と発言
実際に、
「トランプ銃撃事件が起きたのは、シークレットサービスに女性を雇ったせいだ」
「ハリスは子供がいない孤独で惨めなキャットレディ(猫を飼っている一人暮らしの女性という意味)」
と、トランプ氏顔負けの女性蔑視の炎上発言を繰り返している。
またトランプ氏はしばしば独裁者願望を口にするが、前出のティール氏も「私はもはや、自由と民主主義が両立するとは思っていない」「企業が政府より優れているのは、CEOの独裁だからだ。政府も同じように運営したほうがいい」などと発言している。テック・ビリオネアとトランプ氏の相性がいいのも納得できる。
一方、テック・ビリオネアとは対照的に、大企業は目立った動きを見せていない。過去40年間、大企業といえば共和党支持と相場が決まっていた。減税と規制緩和という共和党の基本的な立場が、大企業にとっては都合がいいからだ。
しかし、トランプ政権の誕生でその関係は激変した。石油会社出身のティラーソン国務長官や、銀行家のムニューシン商務長官、さらに財界のアドバイザーらが顔をそろえた。彼らによって実現した大幅な減税は、大企業に莫大なメリットをもたらした。
ところがトランプ政権はアメリカ・ファーストの保護貿易主義と、厳しい移民排斥を打ち出した。自由貿易を好み、雇用確保のために移民を受け入れたい大企業とは、ソリが合わなくなった。
そこにとどめを刺したのが、トランプ氏の態度や発言である。