シリコンバレーの経営者らは「トランプ詣で」
一方対照的なのが、トランプ氏を支持するテック・ビリオネアたち。その代表は世界長者番付2位のイーロン・マスク氏だ。
イーロン・マスク氏はトランプ氏銃撃事件の直後、彼への全面的な支持を表明。毎月70億円もの運動資金を提供すると宣言して大きなニュースとなった。
実はこの話には後日談があり、ハリス氏が立候補した直後に「個人崇拝カルトには寄付できない」と、支援を取りやめるような発言をした。だが実際には自身が設立したスーパーPACにはお金を入れており、「一体どちらの味方なのか」とSNSで炎上している。
銃撃事件で半ば神格化されたトランプ氏の圧勝を信じて金を出すと言ったものの、ハリス氏出馬で世論の風向きが変わったために、態度を変えたのではないかという見方もある。
マスク氏のみならず、シリコンバレーのIT企業経営者やベンチャー・キャピタリストらは今、こぞってトランプ氏の元に馳せ参じている。トランプ陣営の資金不足を救ったのは、こうしたテック・ビリオネアとも言われている。
彼らは仮想通貨やAIに関する規制を推し進める民主党を嫌っていたが、次期民主党政権が超富裕層に対して高い税金を課す、通称「ビリオネア・タックス(億万長者税)」を打ち出すと、規制緩和のために相次いでトランプ氏へ接触しているのだ。
「アメリカンドリームを体現した男」を熱心に支援
こうした巨大IT企業経営者らの支援で急速に頭角を現しているのが、トランプ氏が指名した副大統領候補のJ・D・ヴァンス上院議員である。
ヴァンス氏はオハイオ州の貧しい家庭で育ち、軍隊で4年間勤めた後、自力でイエール大学を卒業して弁護士になった。その頃彼は自伝的な小説『Hillbilly Elegy』(邦題:ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち)を発表、ベストセラーになり映画化もされたほどだ。アメリカンドリームそのものの生い立ちが、トランプ支持者に強く響いている。
ところが彼はなぜかその後IT業界に入り、ベンチャー・キャピタリスト(VC)となる。その時メンターとして彼を育てたのが、決済サービス「ペイパル」の創始者ピーター・ティール氏だった。トランプ氏の政策顧問を務め、「シリコンバレーの影の仕掛け人」との異名をとるティール氏が24億円もの選挙資金を注ぎ込んで、2022年ヴァンス氏を上院議員に当選させた。
今回、ヴァンス氏の副大統領候補擁立を強く後押したのは、マスク氏とやはりVCのデヴィッド・サックス氏といわれている。その後、有力なVC企業「アンドリーセン・ホロウィッツ」の共同設立者2人もトランプ支持を表明した。
トランプ氏に献金し、身内ともいえるVC出身者を副大統領に据える。それによって第2次政権での発言権を高める意図があることは明白だ。