筆者の試算では、仮に35年固定の住宅ローン金利が徐々に引き上げられて、現在(2024年6月)の1.85%から、2026年度末に3.5%(2000年代半ばの最高水準)に達するという経路を想定すると、住宅取得のための標準的な調達可能金額を減らさないためには、貯蓄額が2000年代半ばの水準まで回復することを想定しても、可処分所得が年率7%ペースで増加する必要がある。この所得の増加ペースの実現は簡単ではない。
「買いたくても買えない人」にどう向き合うかがカギ
もっとも、多くの金融機関が、住宅需要の高い若年層の囲い込みを図るべく、住宅ローンの融資期間を35年から50年へと長期化している。
住宅ローンの長期化によって、借り手は毎月の返済額を減らすことができる。仮に、現在の35年固定金利(1.85%)で融資期間を35年から50年に延長すると、借入可能金額は約1400万円増加する計算となり(筆者試算)、住宅取得能力は著しく向上する。
一方、金融機関にとっては、住宅ローンの融資期間の長期化は貸し倒れリスクの増大を伴うが、住宅ローンの獲得を通じて新たな預金口座を開設すれば、銀行の資金調達コストの低下につながるというメリットもある。
さらに、共働き世帯が増加し、配偶者等の「世帯主以外の所得」が増加しつつある中、夫婦などで住宅ローンを借りる「ペアローン」の利用者が増加している。
世帯主の基本給に共働きの配偶者等のパート・アルバイト収入増が加われば、住宅取得のための調達可能金額が増加する。一部の銀行では、ペアローンを利用する夫婦の一方の死亡時に、双方の債務が免除される団体信用生命保険(団信)を導入するなど、ペアローンの利用促進に向けた積極的な取り組みも見受けられる。
上昇一服は朗報だが…
首都圏の新築マンションを購入したい家計にとって、マンション価格の上昇一服は朗報でもある。
ただ、「金利のある世界」で家計の住宅取得能力を一段と高めるためには、家計所得や貯蓄の増加のみならず、銀行による住宅ローン貸出スタンスの積極化が不可欠である。
金利上昇による貸出利ザヤの改善にとどまらない、信用創造という銀行本来の役割が「金利のある世界」では一段と求められる。