行き詰まった中国は台湾を獲りに行く

中国国内でも経済停滞への危機感は強いのですが、財政出動による景気の下支えなどのテコ入れも、政府債務や地方債務の大きさを考えると簡単には実行できないと見られています。「サマーダボス」会議でも、コロナの影響を過小評価すべきではなく、コロナからのリオープンで経済のリバウンドが起こるなどは「現実的ではない」という悲観的な意見が中国人の出席者からも出ていました。

こうした“内憂”をかかえる中国ですが、習近平体制はますます権力の集中を進め、対外的には強硬な姿勢を強めています。台湾への姿勢も例外ではありません。中国経済の停滞は世界経済にとってのリスクですが、それで大勢の人が死傷するわけではありません。しかし、中国が台湾に軍事侵攻するかどうかは、大勢が死傷する可能性を秘めた国際政治の巨大リスクです。

中国経済の低迷と対外的な強硬姿勢は、まさに『日本人にどうしても伝えたい 教養としての国際政治 戦争というリスクを見通す力をつける』(KADOKAWA)の第1章で述べた「デンジャー・ゾーン」の議論、つまり「自らが衰退する前に台湾をりに行く」危険性を十分に想起させるものでした。

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「台湾は国の一部」とは異なる中国の本音

では、もし中国が台湾に軍事侵攻するならば、そもそもいかなるロジックで侵攻を正当化するのでしょうか。中国が抱く「台湾侵攻の論理」とは何なのか、基本的な考え方を探ってみたいと思います。

習近平主席は「台湾の祖国からの分裂を断固として阻止し、祖国は再統一されなければならず、必然的に再統一される」などと、台湾を中国に組み入れる意思を何度も強調しています。「必然的に」という言葉に強い決意がにじみ出ており、怖さも感じます。

いつ台湾統一を実現するつもりなのか。第1章で示した通り、アメリカの情報機関が把握しているとする時期は2027年です。一方で中国側から見ると、この2027年というのは中国人民解放軍の創設100年の節目であり、習近平主席にとっては中国共産党総書記として3期目の最後の年にあたります。

もっとも実際は、2027年に直ちに侵攻が起こるというより、2027年以降はいつ起こってもおかしくない状態だととらえるべきかもしれません。

中国にとって台湾は「国の一部」なので、軍事的な手段を含め台湾を統一することは、あくまで国内問題への対処であり、当然ながら中国の自由だと主張しています。建前としては、平和的な統一が第一であり、軍事的な統一を強調することはほぼありません。

しかし、本稿で見ていく「台湾侵攻の論理」とは、中国が繰り返し主張するこうした平和的な統一の論理ではありません。ある意味で、その基本的なロジックを突き詰めた本音の部分、つまり武力統一の論理です。