大統領を呆然とさせたトランプ氏の「ウソ口撃」

同時に彼らは民主党とメディアに対しても批判の声を上げている。バイデン氏の年齢と健康不安にフォーカスするあまり、トランプ氏の問題ある言動の数々が検証されていないためだ。

前述したバイデン氏との討論会では、バイデン氏の衰えぶりに注目が集まりすぎたために見逃されていたが、話の内容自体はトランプ氏のほうがずっとひどかった。受け答えの大半は虚偽や不正確な情報で、いったいどこの国の話をしているのか? と唖然とするほど嘘で塗り固められていた。

それをバイデン氏に次々とぶつけ、強い調子で彼の非を追及するものだから、バイデン氏が呆然としているように見えた側面は否めない。中継したCNNの進行役2人も、ファクトチェックが追いつかないほどの嘘の乱れ打ちに戸惑っている様子だった。バイデン氏の精彩さを欠く反応を引き出すための、トランプ氏の巧妙な作戦勝ちである。

筆者提供
トランプ氏支持者の間で出回っているバイデン大統領との比較画像。「トランプは銃弾と戦い、バイデンは階段と戦う」

さらに、暗殺未遂事件で世論を味方につけただけでなく、今や司法をも取り込んでいるといってもいい。象徴的なのが、このほど連邦最高裁が下した前代未聞の判決だ。

トランプ氏は4つの事件で起訴されており、うち一つについてはNY州地裁で有罪判決を受けている。

「法の上に君臨する王を誕生させた」

前出のシャンシャンは「有罪になったトランプ氏は出馬を取りやめるべきではないの?」と言う。しかし、アメリカには起訴、または有罪判決を受けた人が大統領になってはならないという法律はない。そもそも前例がないからだ。

一般人なら窃盗などの軽犯罪であっても、前科があれば就職は難しい。それなのに連邦最高裁は先日、トランプ氏を含む歴代大統領の刑事責任については「免責特権が限定的に認められる」と異例の判断を下した。

免責特権とは、罪を犯しても罪に問われないということだ。そんなことが民主主義国家でありえるのか? と思うだろう。実際に下級裁判所では軒並み否定されてきた。ところが、最高裁では「一部を認める」判断をしたのだ。

その一部とは、「公式な仕事における免責」を指す。たとえばプライベートでコンビニのチョコレートを万引きすれば罪に問われるが、公式な仕事なら問題ない。

これはどういう意味なのか?

判断に反対した最高裁判事の1人、ソニア・ソトマヨール判事はこう述べている。

「軍隊に政敵の暗殺を命令しても免責。権力を維持するために軍事クーデターを起こしても免責だ。恩赦と引き換えに賄賂を受け取っても免責、すべて免責だ」。強い言葉で繰り返し、最高裁は「法の上に君臨する王を誕生させた」と非難した。