「復興」よりも優先される「憂さ晴らし」
ブラジルでは近年、中道政治に対する支持が低迷し、極左と極右がいがみ合う政治的二極化が常態化し、官民の協調が困難を極めている。現にポルトアレグレでは水害発生直後から行政と市民の対立が激化している。
ポルトアレグレでは、長年のメンテナンス放棄から水害の拡大を抑える水門が作動しなかったことや、2023年度災害対策費の支出がゼロだったことなどから、現市長への批判が高まっている。
ポルトアレグレ住民協会は、市議会に市長に対する弾劾請求を提出し、市民は住宅の窓辺で鍋をしゃもじなどで叩いて騒音を起こす抗議運動を展開した。
「鍋たたき」はボルソナロ前大統領のコロナ対策への抗議としてたびたび発生していた。
ブラジルでは未曽有の災害からの復興において、住民同士や官民一体の協力を脇に追いやり、「憂さ晴らし」を優先する住民も少なくないのだ。
「以前から指摘してきましたが気候変動によりブラジル南部では、今後水害が繰り返し発生する可能性が高いのです。そのため、市民にも復興において主体的に行動する意識が必要です」
東日本大震災で感じた「日本の優れた復興」
ジャロウィツキ氏がブラジル人に手本にしてもらいたいと考えているのが、自身が東京大学に留学中に発生した東日本大震災からの復興だ。
ジャロウィツキ氏は、東京大学と東京理科大学が被災地である宮城県気仙沼市の「唐桑町鮪立」地区の復興を目的として地元自治会と共に発足させた「鮪立港まちづくり百年会」にひとりの学生として参加し、日本の復興について学んだ。
ジャロウィツキ氏は発生直後の2011年6月から、博士号取得の報告を兼ねた2013年2月まで計7回、鮪立を訪れ、住民への聞き取り調査や避難ルートのフィールドリサーチに携わった。
人口787人(2012年3月現在)の小さな集落で見た日本人の行動様式には目を見張るものがあったという。ジャロウィツキ氏は現地の復興プロセスの研究を通じて、
□ 綿密なモニタリングと行き届いた災害警報
□ 災害教育と継続的な訓練
□ 集団行動における役割分担と責任
□ 学術調査への住民の理解と積極的参加
□ 復興への長期的視点
□ 活かされる過去の経験
――の6点が、住民の高い防災意識や日本の効率的な災害復興に役立っていると分析した。