なぜアメリカ人は老後が楽しみなのか
多くの日本人は老後を心配していますが、アメリカ人は老後に楽観的で、むしろ年金生活を楽しみにしています。この違いを生み出しているのは、経済成長の差ではないでしょうか。
アメリカの年金は、確定拠出型が基本です。自分で支払う保険料の額を決めて自分で株式などの運用資産を選定し、儲かった金額を受け取る仕組みです。たとえば、アメリカの代表的な株価指数であるニューヨークダウ平均株価は5月中旬に4万ドルを超えて話題になりました。30年前の1994年には3800ドル程度でしたから、10倍以上になっています。年金の掛け金を大きく増やせたのです。
一方で日本の年金は、確定給付型が基本で、将来受け取る年金額が決まっています。自分で運用して増やすアメリカの年金とは、仕組みが異なるのです。なお、最近では確定拠出型企業年金やiDeCo(個人型確定拠出年金)など、自分で運用先を決めて、運用成果によって年金が変わる仕組みも浸透しつつありますが、円建てであれば来るハイパーインフレに耐えられないでしょう。
また、日本の年金は「賦課方式」を採用しています。これは、現役世代の支払った年金保険料で高齢者の年金を賄うモデルです。これは少子化が起こる前の制度設計であって、お金をもらう高齢者が、支払う現役世代よりどんどん増えていけば、成立しません。
もう一つ、年金は保険の一種であることを忘れてはなりません。保険は、「もらえる人」と「もらえない人」がいることで成り立ちます。たとえば火災保険は、火事に遭う人が少ないから、火事に遭った人に保険金を支払うことができるのです。昔の年金は、給付開始時期と平均死亡時期にギャップがあったので、長生きした人だけが受け取れました。いまはほぼ全員が受け取れますから、成り立ちません。
ですから、公的年金だけで老後資金を賄うのは困難です。加えて、前述のハイパーインフレがやって来れば、年金もとんでもないことになります。日本の公的年金は、物価に連動して受給額が上がる仕組みになっていますから、ハイパーインフレがやって来れば、年金の額も上がっていくでしょう。しかし、物価はそれを上回って上昇します。食品の値段は1日ごとに急上昇していく可能性も考えられます。年金を受け取って1日、2日は飢えないかもしれませんが、3日目からは何も買えないような状況になるのは、目に見えています。
地獄を見ないためにドル建て保険への加入を
そのときに困らないようにするには、どうすればいいでしょうか。私は「ドル資産を持て」とずっと言っています。ハイパーインフレが起きたときは、一種の火事が起きたようなものです。そのときにドルという資産を持っていれば、保険に加入していたような効果が得られ、何とか生きていけるわけです。火災保険に入っていない人が火事に遭ってしまうと大変です。円だけで資産を持っていることは、それと同じようなものなのです。
老後資金を準備するドル建ての商品には、「外貨建て個人年金」「外貨建て終身保険」などがあります。いずれも保険料を外貨で運用する商品です。たとえば、米ドル建ての場合、現在の積立利率は4%台後半です。外貨建てですから為替リスクはありますが、円安になったときには、為替差益と運用益の両方が得られることになります。加入を検討する際には、各社の商品を十分に比較してください。
※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年7月19日号)の一部を再編集したものです。