いま長期金利が上がると0.1%ごとに2.9兆円の評価損が発生(注1)、短期金利を0.1%上げるたびに5000億円の支払い金利増(注2)が起きるのだから、今の日銀に政策変更などできるはずがない。
(注1)今年3月7日の参議院予算委員会で、日銀は、2023年9月末時点(10年債金利0.76%、保有国債の評価損10兆円)から機械的に計算すると、イールドカーブが全体として1%上方にパラレルシフトした場合、評価損の拡大幅は29兆円程度となる答弁した。
(注2)法定準備金を除く日銀当座預金約500兆円の0.1%は5000億円となる。長短金利の上昇で、とんでもない負荷が日銀にかかることになる。
2023年9月30日の「日本金融学会秋季大会」で、植田総裁は「中央銀行の財務は、民間の金融機関や事業法人の財務とは異なる面があり、専門家でなければ馴染み難いものです。一方で、通貨や中央銀行の信認にも関わる極めて重要なテーマです」「基本的に、中央銀行については、収益や資本の減少によって直ちにオペレーショナルな意味での政策運営能力が損なわれることはない。ただし、収益や資本の減少を契機とする信認の低下を防ぐため、財務の健全性への配慮も大事」と述べられている。
植田総裁の認識の通り、中央銀行の財務悪化は日銀自体や円の信認失墜の原因となる。これこそが日銀が、現在の経済情勢や政府の物価対策にもかかわらず、日銀が「超超超超超金融緩和政策」を継続している理由だ。
金利上昇も地獄、株安も地獄…
5月30日、10年債金利が1.1%に上昇した。今まで参議院財政金融委員会で私が日銀から頂いた資料を基に機械的に計算すると、約19兆円の国債の評価損が発生していたことになる。
引当金プラス準備金が12兆円あるので、この2つだけを考えると7兆円の債務超過となる。しかしながら、ETFの利益が、5月30日現在約34兆円あると推計されるので(私の推計)、現在、日銀は27兆円の純資産状態が保たれている。
しかしながら、世界の中央銀行の常識では持ってはいけないとされる株の評価益で何とか債務超過を逃れているなど、中央銀行としてあまりにお粗末としか言いようがない。格付け機関や外銀審査部の日銀に対する信用審査において、この点はものすごく減点要因になると私は思っている。
さらに言えば、27兆円の純資産など、ほんのわずかなマーケットの動きで吹っ飛ぶ。前述の通り、長期金利が0.1%上昇すると国債評価損は2.9兆円増える。株の損益は、私の計算では日経平均1000円の下落で1.6兆円の評価益が減る。5月30日は、長期金利が1.1%に上昇したという理由で、日経平均が一時900円ほど下落した。今後長期金利が上昇すると、株価も一緒に下落する可能性は高い。
つまり長期金利が0.1%上昇して、日経平均が1000円下がると、日銀の純資産は単純計算で4.5兆円減少することになる。長期金利が0.4%上昇して、日経平均が4000円下がると、日銀は債務超過の危機に陥る。さらに短期金利を0.1%上げるごとに年間5000億円の垂れ流しも始まる。これでは利上げ(金融引き締め)などできるわけがない。