中国の株式市場が暴落しない理由

最も奇っ怪なのが株式市場である。経済が不況どころか苦況に陥ったのだから、株価はもっと下がる、というより暴落するはずなのに、中国の株式市場はそれほど下落していない。

なぜか? 国家安全部が厳重に「空売り」を監視し、「金融安全の強力な守護者になる」と共産党が指令を出しているからである。

共産党は現状を「一部の外国と投機筋があらゆる手段を用いて中国の金融市場を撹乱し、空売りを繰り返し、我が国における金融の混乱を引き起こそうとしている」と分析している。自らの責任を棚に上げて他人の所為に、それも陰謀論にすり替えているのだ。

経済議論でも真実を言う人はいなくなった。なぜならSNSで、「中国衰退」と言えば秘密警察がすぐに取り締まるからだ。エコノミストは本当のことを言えない状態である。

共産党の陰謀論を信じてしまう国民

国家の経済運営と無関係の国家安全部(秘密警察組織)は「経済安全を守る壁を築こう」という論評を公式HPに掲載した。「中央経済工作会議の精神」を受けて、国家安全部も「全力をあげて中国経済の安全を守る」ことにしたのだという。

宮崎正弘『悪のススメ 国際政治、普遍の論理』(ワニブックス)

国家安全部は、「中国経済をおとしめる動きがネット上で飛び交うが、本質は『中国衰退』という虚偽の言説をつくり上げ、中国の特色ある社会主義体制を攻撃し続けることにある。こうした論調は『国家の経済安全を危害する』として徹底的に取り締まる」とした。

『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』(2023年12月23日)によると、同年4月にネット上の3万4000のアカウントを閉鎖し、2万7000件の噂情報を審査し、対象は6300人に達したそうだ。

外国の所為で株価が下落しているなど子供だましの嘘放送にすぎない。しかし朝から晩まで一年365日嘘放送が繰り返されている中国では、ものごとを深く考えない人には「そうか、外国の陰謀なんだ」という偽造の論理が通じやすいのである。

中国のSNSは洗脳装置となった。

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