姉は相続放棄をするというが、念のために遺言書の作成を

ところで、たかしさんには海外に住む姉がいる。相続の際は、姉にも同等の権利があるが、そのことについて尋ねると、父親が答えてくれた。

「情けない話ですが、この子の姉とは絶縁状態と言いますか、もう何年も連絡すら取っていません。以前、相続などについて話し合った際、相続は放棄する代わりに、弟の面倒は一切みないとはっきり言われました。もう日本に帰ってくるつもりもないようですし、姉に何かを期待するのは諦めています」

姉が相続を放棄するのであれば、遺された財産はすべてたかしさんが相続することになる。ただし、実際に相続が発生した際、法定相続分がほしいと主張される可能性はゼロとはいえない。そこで、財産のすべてをたかしさんに相続させる旨の遺言書を作成することを勧めた。遺言書があったとしても、子ども(この場合は姉)には「遺留分(本来の相続分の半分など)」をもらう権利があるが、それでも本来の相続分よりは少ない金額を渡せば済む。

両親とも、たかしさんに財産のすべてを譲る旨の遺言書を作成することになった。遺留分の請求については不透明な部分が残ったとしても、親亡き後のたかしさんの生活は、親が遺してくれるお金でまかなっていける目途が立った。

次は、親亡き後のたかしさんの生活について確認してみた。

国民年金の保険料は、たかしさんが20歳の時から、ずっと親が支払ってきている。親が亡くなった場合、それ以降は保険料の免除申請するとしても、65歳からは老齢基礎年金も受給できる。外出をほとんどしないたかしさんは、自分のために使うお金は月に数千円程度なので、親亡き後の生活費は住宅費を除けば10万円を下回ることが予想される。年金がもらえるまでは貯蓄の取り崩しが多くなりそうだが、年金がもらえるようになった後は、貯蓄を取り崩すペースは鈍くなるはずだ。

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問題は、築年数が40年を超えている自宅のこと。両親としては、修繕をしながら今の家に住み続けていくつもりだというが、たかしさんが人生の最期まで住み続けていくのは難しそうである。幸い、川崎家の自宅は、駅から徒歩数分という好立地にあるため、父親か母親が亡くなった時点で「古家あり」の形で売却し、売却で得た資金でマンションに住み替えるプランを提案した。

住み替えの話を聞いたたかしさんは、最初は抵抗感を示していた。これに対して筆者はこんな見通しを伝えた。

「もともと生活保護を受けて、アパートでひとり暮らしをするプランを考えていましたよね。アパートでのひとり暮らしに比べれば、今の家を売ったお金で住み替えができて、持ち家の安心感を継続できます。将来、ひとりになったとき、賃貸住宅では老朽化による住み替えに遭遇するかもしれませんので、たかしさんには最期まで住み続けられる家の確保が重要だと思います」

納得してくれたたかしさんは、面談前は「父親と離れて暮らしたい」と言っていたが、面談が進むにつれ、変化が現れてきた。以前は父親が自分のことを疎ましく思っていると感じていたわけだが、面談を通して父親が自分をかなり気にかけてくれていることを実感したそうだ。その結果、父親と別居のプランを検討する必要はないと感じたらしい。

そして、相談が終わりかけたとき、たかしさんは次のような言葉を発した。