同じ小学館原作、同じ脚本家でも脚本事前提出で揉めなかった

例えば、2022年1月スタートの「ミステリと言うなかれ」(フジテレビ)は、「セクシー田中さん」と同じ脚本家が、同じ小学館発行のベストセラーコミック(作・田村由美)の脚色を担当したが、主演の菅田将暉がラジオで語ったとおり、スタート時には、というよりはそのほぼ1年前に最終話まで撮り終わっていた。同作の松山博昭監督(フジテレビ)はこう語っている。

「今回はクランクイン前に台本が全部できていましたし、放送は1年後で編集は後回しにできたので、それだけ現場にいられました。結果、前倒しに撮影できて良かったなと……」

「普段は、台本を作って撮影の準備をして実際に撮影して、編集してポストプロダクション(音声処理や映像効果)をやってと、無茶なスケジュールで作っているので、その全てのプロセスにちゃんと集中できる方法でやってみると、とても効率的ですし、スタッフの働き方改革としてもこうあるべきだと思いましたね」

「大義名分として『連続ドラマは視聴者の反応を見ながら内容を変えていくべきだ』とずっと言われてきたんですよ。しかし、実際にはバラエティー番組のような生放送ではなく、反応が出てきた頃には大半を撮り終わっているものなので、それならクランクインするときに結末までの設計図を持って入る方が圧倒的にメリットがあると思います」

(第111回ザテレビジョンドラマアカデミー賞監督賞受賞インタビュー

テレビ局は主演俳優のためならドラマ制作を前倒しにできる

また、2022年7月スタートの「競争の番人」(フジテレビ)も、新川帆立による同名小説をいち早く連続ドラマ化したが、放送開始時には最終話まで撮り終わっていた(まんたんウエブ「競争の番人:“ダイロク”の面々がクランクアップ コロナ禍で撮影延長も」)。

こういった前倒しのスケジュールで撮影するのは、主演もしくは準主演俳優のスケジュールに合わせるためだ。主演俳優に舞台の予定があるからとか、海外で映画の撮影があるからとか、NHKの大河ドラマや朝ドラ(連続テレビ小説)の撮影が始まるからなど、とにかく主演ファーストで、他のキャストやスタッフはそれに合わせなければならない。テレビ局のドラマ制作は、良くも悪くもスターありき。1年前倒しの撮影だって、原作者や出版社には「できない」というポーズを取ってみせても、芸能事務所の要請であれば「できる」のだ。