国民に見えにくい形で近づく「負担増」

ところが2023年12月に大騒ぎになった自民党安倍派パーティー券の収入不記載問題が燎原りょうげんの火のごとく自民党内に拡大。首相は対応に追われることとなる。首相が会長を務めてきた自民党の派閥「宏池会」を突然解散するなど、サプライズの一手も繰り出したが、自民党への批判は一向に収まらなかった。

結局、パーティー券収入が「裏金」化して議員に環流していた問題では原因追及はそこそこに一部議員に責任を負わせることで幕引きを図ったが、対策である政治資金規制法の改正では与党の公明党や関係が良好だったはずの日本維新の会からも批判を浴び、両党の修正案を「首相決断」で丸呑みする芸当を見せた。

これで解散に突き進むのかと思いきや、自民党内の反発は凄まじく、新聞各社は「解散見送り」と見出しを立てた。このままでは岸田首相は9月の総裁選には立候補できずに退任することにもなりかねないところまで追い詰められている。

しかし、そもそもなぜ岸田首相は「減税」にこだわったのか。

実は国民にはなかなか見えにくい形で「負担増」がヒタヒタと近づいているからに他ならない。すでに防衛費を5年間で43兆円に増やすことが決まっており、法人税、所得税、たばこ税の引き上げを表明している。2027年度にはこの3税で1兆円強を確保する。当初は2024年度から段階的に引き上げていく予定だったが、25年度以降に先送りされている。

写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです

国民負担率の2022年度の実績は過去最高を記録

6月5日に国会で成立した「子ども・子育て支援法」による支援金制度の原資は、公的医療保険に上乗せして徴収されることが固まった。2026年度は6000億円、27年度は8000億円、制度が確立する2028年度以降は1兆円をこれで集めることになった。

要は、負担増が次々とやってくるわけだが、岸田首相は「実質負担は増えない」と言い続けてきた。保険料に上乗せ徴収されるのに「負担が増えない」と語るのは理解不能だが、給与が増えるので負担率は変わらない、という趣旨らしい。

首相は減税を打ち出した2023年10月23日の所信表明演説で、「国民負担率は所得増により低下する見込みです」と述べていた。国民負担率とは、税金と社会保険料の負担額を国民所得で割ったものだ。

ちなみに、財務省が2024年2月9日に公表したデータでは、国民負担率の2022年度の実績は48.4%と過去最高を記録した。にもかかわらず、首相の答弁に合わせるかのように、2023年度の「実績見込み」は46.1%、2024年度の「見通し」は45.1%という数字が出されている。だがこの「実績見込み」が曲者で、「低下する」という見込みが出されても、翌年の「実績」になったところで大きく数字が上昇するということが繰り返されてきたのだ。岸田首相が言うように、本当に負担が減るのか、来年2月のデータ公表が楽しみだ。