防衛費の財源として「たばこ税」を含む増税が検討されている。早稲田大学公共政策研究所の渡瀬裕哉さんは「岸田政権は増税路線を進めており、加熱式たばこを対象とした増税に着手する可能性が高い。しかし、喫煙者は相対的に所得の低い人々であり、たばこ増税は逆進性が高い」という――。
リラックスするために電子タバコを吸う女性
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防衛費増額の財源候補として検討されている

6月20日、自由民主党「国民の健康を考えるハームリダクション議員連盟」(会長・田中和徳元復興相)が加藤厚労大臣・鈴木財務大臣に提言書を提出した。提言書の内容は、紙巻たばこと比べて低い税率に抑えられている加熱式たばことの税率差を維持することを求めるものだった。

今、なぜこのような動きが自民党内で強まっているのだろうか。それは岸田政権が進める無理筋の防衛増税の方向性に党内で反発が強まってきているからだ。

同提言書提出に先駆けて、6月16日、防衛費増額の財源の根拠となる防衛財源確保法が参院本会議で可決している。

中国などの安全保障上の脅威に対抗するため、岸田政権は巨額の防衛費増額を推し進めている。そのため、同法では、政府資産売却益、特別会計繰入、そして歳出見直しなどで財源を捻出し、税使途が限定された防衛力強化資金を設置することが決定した。

しかし、同時に同基金の財源が不足することを前提とし、宮沢洋一税制調査会長(岸田派)が率いる与党税調では、所得税、法人税、たばこ税などの増税などが同時に検討されてきている。

岸田政権は増税路線を保留せざるを得ない情勢

この増税の流れに反発する自民党議員から声が上がり、防衛費増額の財源を巡る政策論は急速に政局の色彩を帯びつつある。

今年1月19日に、防衛力の抜本的強化に伴う財源確保の在り方に関し、萩生田光一政務調査会長を委員長とする「防衛関係費の財源検討に関する特命委員会」が新たに設置された。そして、6月9日に同委員会はNTT株の売却や決算剰余金などの特例措置など踏み込んだ財源確保策を岸田首相に提言している。

同提言書は非常に説得的なものであり、「さまざまな財源を精査すると増税は不要である」という増税派にとって不都合な内容が示唆されている。事実上、萩生田政調会長がまとめた同提言は、増税路線の岸田路線に対する明確な拒否を伝えるものだった。

岸田政権は解散総選挙に失敗して求心力を低下させている。そのため、岸田政権は党内からの増税路線に対する不満を跳ね返すパワーを失いつつある。このまま増税反対の世論を強めていけば、岸田政権は増税路線を保留せざるを得なくなる情勢となっている。