喫煙者は相対的に所得が低い

防衛増税の対象とされる、所得税、法人税、たばこ税の3税のうち、増税に反対することが最も困難な税目はたばこ増税だろう。つまり、たばこ増税すらできない世論環境が醸成されれば、他2税の税率を引き上げる世論喚起はほぼ不可能となる。

たしかに、喫煙者は社会的に嫌われており、喫煙者本人にとっても喫煙の習慣は望ましいものではない。ただし、

厚労省の国民健康・栄養調査(平成30年)によると、現在習慣的に喫煙している者の割合は、男女ともに世帯の所得が低いほど高くなる傾向がある。20歳以上の男性の喫煙者の割合(推定値)は、年収600万円以上の世帯が27.3%なのに対して、年収200万円未満の世帯では34.3%。女性は年収600万円以上の世帯6.5%に対して、年収200万円未満の世帯では13.7%となっている(同調査第89表)。

【図表】所得別喫煙率(男女別)
出典=厚生労働省「平成30年国民健康・栄養調査報告

つまり、喫煙者は相対的に所得が低い人々であり、たばこ税は逆進性が高い税金なのだ。特定の低所得者を狙い打ちにして防衛費をねん出する合理的な理由はない。むしろ、そのような税目で防衛費を賄うことは国民全体の団結を妨げるものだとすら言える。

見出しに踊る「防衛財源」の文字
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「より害が少なくなる選択肢」を消すことになる

また、次回のたばこ増税は加熱式たばこを対象とした増税となる可能性が高い。しかし、加熱式たばこに対する課税強化は政策的に正しい選択なのだろうか。

冒頭に触れた「国民の健康を考えるハームリダクション議員連盟」は、ハームリダクションという先進的な政策理念に基づいて加熱式たばこの増税に反対している。ハームリダクションの定義は「薬物使用、薬物政策、薬物法に伴う健康、社会、法的な悪影響を最小限に抑えることを目的とした政策、プログラム、実践」(出展:Harm Reduction International)とされる。簡単に言うと、ダメなものを禁止としたところで実効性が低いため、その善後策として国民に「より害が少なくなる選択肢」を提供するという考え方である。

イギリスの公衆衛生局の報告書(2018年)は「加熱式たばこはベストの選択肢ではないものの、可燃性たばこよりも少ない毒素が含まれている」とした。もちろん、加熱式たばこと紙巻たばこの人体への影響を正確に検証するには長い年月が必要だ。しかし、既に先進的な報告が出始めていることや今後の技術革新を考慮した場合、加熱式たばこのほうが有害性の改善が見込まれることは当然のことだ。

また、たばこは火災の原因にもなり得るが、消防庁が取りまとめた「加熱式たばこ等の安全対策検討会報告書」によると、加熱式たばこは紙巻たばこよりも寝たばこの被害が少ないとされている。加熱式たばこの税率引き上げを紙巻たばこに優先する理由はない。