灘中学校・灘高等学校校長 海保雅一先生

一つでいい、夢中になれるものに出合って!
灘中学校・灘高等学校校長の海保雅一先生(撮影=梅田佳澄)

「小学生のうちに絶対やるべきこと」

プレジデントFamily編集部からの課題について、私にはその答えとなるものが思いつきません。やらないよりはやっておいたほうがいいかもしれないこと、なら山ほどあるでしょうが、それらが欠けたらお子さんが順調に成長できないなどということはないと思うのです。

これからの時代を生き抜いていくために必要な能力にはさまざまなものがありますが、こうしたらお子さんにその能力が身に付くなどと、健康食品の宣伝のようなことは、とても申し上げられません。

ただ、個人的には精神科医の帚木蓬生ははきぎほうせい氏が提唱しておられるネガティブ・ケイパビリティが、これからの時代には必要だと思っています。

小学生のお子さんも、学年が上がるにつれて、世の中の仕組みは絵本や教科書に書かれているほどうまくできてはいないことに、徐々に気づき始めるのではないでしょうか。

実際、世の中に出ると、不条理なことや解決方法が見えない困難なことにしばしば出合います。そんなときに、あきらめたり、安易な解決法にとびついたりせずに、未解決の問題を抱えた宙ぶらりんの状態を持ちこたえながら前向きに生きるのに必要な力を、ネガティブ・ケイパビリティと呼びます。

ネガティブ・ケイパビリティを育む土壌となるのは、世界は「素晴らしいものだ」とまではいかなくても「捨てたものではない」という認識、そしてその世界と自分がつながっているという感覚です。

『プレジデントFamily2024春号』(プレジデント社)

この認識や感覚を持つ方法は一つではありません。音楽、美術などに触れてその美の世界と共鳴する。スポーツや集団活動に取り組んで人との絆の大切さを体感する。植物や昆虫などの自然や宇宙の仕組みの精緻さを知って感動する。まだまだたくさんありそうです。

それぞれのお子さんの個性に合った方法を親御さんが一緒に見つけてやることが大切だと思います。

小学生のうちにしておいてほしいこと。それはつまり、感動したり共鳴したり、夢中になれたり、そんなことに一つでもいいから出合っておいてほしい、ということかもしれません。

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