寅子の「どうして女の人ばかりが損をするのかしら」

――日本では夫婦別姓を認めるかどうかが約40年も議論されているんですね。

そうなんです。婚外子への法律上の差別もあり、そのことについても働きかけしてきました。住民票の世帯主との続柄欄は、昔は婚姻中の実子なら「長女」や「次男」、養子は「養子」、婚外子は「子」と、区別して書かれてたのよ。ある裁判の中で行政交渉をしてもらうと、1995年にすべて「子」に変わった。つまり住民票を見ても区別されなくなったのね。立法だけじゃなく、裁判を通して制度が変わって、法律を人間のほうに合わせていけるんですよ。

選択的夫婦別姓は、実は1996年に実現しかけてます。法制審議会で全会一致、国会に上程して、あとは採決だけ。でも自民党が反対して決まらなかった。夫婦別姓や同性婚には「多様な意見がある」と長年ストップをかけて、共同親権に反対する声には耳を傾けない。これって矛盾よねぇ。

わたしね、数多くの判例を調べたことがあるんです。裁判の中で女性がどう扱われてきたか。昔から法や裁判は「男の痛みに敏感で、女の痛みに鈍感」「女の首は軽い」っていわれてきたんです。寅子もよねさんも、劇中で同じようなことをいって嘆くでしょう。ケーススタディを通して、それはやはり現代も事実なんだと実感しましたね。

「虎に翼」はいい男だらけ、しかし男性から見ると違うのか

――「虎に翼」の序盤では「あさイチ」の司会の博多大吉さんが「朝ドラ受け」で「そろそろいい男出てきてほしいな」と発言して話題に。そのあと花岡が登場しましたけど。

えーっ、みんな男性キャラクターも素敵なのにね。元書生で寅子と結婚した優三さん(仲野太賀)なんて、本当にいい男ですよ。寅子の法律に対する憤りを受けとめて、寅子の「はて」を深める手助けをしてくれて。父親の直言(岡部たかし)も、「俺にはわかる」のお兄ちゃんの直道(上川周作)も、いい男でしたよね。

――3人ともこれまでの朝ドラにはあまりいない、弱みを見せられる男性。共亜事件での冤罪が晴れたときの「父さんのいうことを信じないでいてくれてありがとう」というセリフは家父長制に逆らうもので、象徴的でした。

そうねぇ。寅子は本当に優三さんと結婚して、よかったよね。だからこそ、そのあとの戦争が……つらかったですよね。寅子のモデル・三淵嘉子さんの伝記を読むと、実際に戦争で大変なご苦労をされて、疎開して掘っ建て小屋みたいなところで暮らして。

ご結婚はね、ご両親が三淵さんに「誰かいいと思う相手はいないのか」とたずねたら、ずっと前に家にいた書生さんの名前を挙げるものだから驚いたんですって。優三さんと同じく、やはり戦争にいってご病気で亡くなられるんですけど。

もし花岡(岩田剛典)のような人と結婚したのだったら、のちに「家裁の母」と呼ばれるような、大活躍の人生は送らなかったのかもしれない。そんなふうにも思うんですよね。三淵さんのことを直接は存じ上げないけれど、人づてに聞くと、会った人はみんな彼女のことが大好きになっちゃう、そういう人だったそうです。

武藤嘉子 (後の三淵嘉子)、昭和13年(1938)頃の撮影(写真=PD-Japan-oldphoto/Wikimedia Commons