――窃盗や殺人のような刑事事件は男性弁護士が多いイメージがあります。

國本 刑事事件の場合はまた違ったリスクがあります。弁護士が女性で被疑者被告人が男性の場合、ストーカー化することがままあります。

――國本先生は日本のリーガルドラマはあまり見ないとのことでしたが、『虎に翼』にハマってその評価は変わりましたか?

國本 正直なところリーガルドラマは食わず嫌いになっていて、本当に観ていないんですよね。

――日本のリーガルドラマへのネガティブなイメージが強いなか、『虎に翼』はどうして観てみようと思ったんでしょう。

國本 朝ドラだから、ですね。僕は『スカーレット』や『半分、青い。』が特に好きなんですが、『あまちゃん』以降の朝ドラには外れがあまりない気がしています。『らんまん』があれだけ良かったから、次は落ちるかなと思ったら『ブギウギ』も面白かったし、さすがにリーガルドラマはキツイかと思ったら『虎に翼』もいい。あと『虎に翼』を僕が楽しめているのは、戦前の法律用語に僕がそこまで詳しくないので、引っかかるところがあっても「戦前はそうだったのかな?」と思えるのも大きいかもしれません。

「ここまで詳しく調べているドラマだから」という信頼感

――引っかかるところと言うと?

國本 例えば「被告」と「被告人」という言葉の使い方です。民事事件では「原告と被告」、刑事事件は「検察官と被告人」と呼ぶのが現在のルールです。なので、刑事事件なのに弁護士が「被告」と言っているドラマがあったら、その時点で「これはダメだな」とわかるんです。でも『虎に翼』の場合は「ここまで詳しく調べているドラマだから、あえて使っているのかもしれない」という信頼感があります。

 寅子の父親の贈収賄事件で、大庭長男の台詞で刑事事件なのに「被告」という言葉が出てきますが、佐藤倫子弁護士がSNSで紹介していた帝人事件の弁護人の弁論要旨を見ると、たしかに「被告」という言葉を使っているんですよね。それで「戦前は刑事事件でも『被告』を使っていたんだ」と知りました。やっぱり本作脚本家の方が僕の認識よりも整合性が高く正しい(笑)。

――おもしろいです。他にも気になったところはありますか。

國本 寅子の家に検察が捜索に来て捜索令状を出すときに、寅子の父を「勾留した」と言ったのも少し引っかかりました。勾留は、逮捕の後に証拠隠滅や逃亡を防ぐために引き続き身柄を拘束することで、家宅捜索はだいたい逮捕の時が多いんです。それでいろんな可能性を考えましたが、ストーリーではその日に父親は逮捕されていたので、「逮捕したその日に勾留」だったようですね。もしかすると戦前にはそういう運用があったのかもしれないなと思いました。