〈「脚本家はいったいどこまで調べて…」現役弁護士が驚いたマニアックすぎるエピソードと、実在事件の使い方「『虎に翼』は日本国憲法97条のドラマ化だと思う」〉から続く
毎朝のようにSNSのタイムラインを席巻している「虎に翼」。主演・伊藤沙莉(30)が日本で初めて弁護士になった女性を演じているが、今作が多くのリーガルドラマ(司法ドラマ)と違うのは、現役弁護士たちの心も掴んでいることだ。
「一体どこまで調べて脚本を書いてるんだ」「脚本侮っててすんませんでした」と絶賛する國本依伸弁護士に、『虎に翼』のどんなところがすごいのか話を聞いた。
――『虎に翼』では主人公の寅子がまさに女性として初めて弁護士になったところですが、その60年後に弁護士になられた國本先生は、法曹の世界で女性差別を感じることはありましたか。
國本依伸(以下 國本) 僕が司法修習生だった2001年頃、検察庁は女性の採用枠をあらかじめ決めているのではないかという噂が流れてきたことはあります。
――今は女性の比率が裁判官で約22%、検事が約25%で、実は弁護士が20%ぐらいで一番少ないのですね。
國本 司法修習が終って就職活動をする時に、女性弁護士のほうが就職が決まりにくいというのは僕の頃からありましたね。「弁護士が仕事でつきあうことになる中小企業の社長の中には『女なんか信頼できん』と思っている人も多くて、若い女性弁護士の言うことは聞かない。だから女性差別するつもりはないけどうちでは採用できない」なんて、弁護士事務所の人が言ってるのを聞いたこともあります。
「DV離婚事件って非常に危険で、仕事で恨みを買って…」
――弁護士仲間の女性からそうした話を聞くことも?
國本 ついこの間も、司法修習生と教官の弁護士が食事をしてる時に「女子がいないから呼んで来い」って言ったというのがSNSで話題になりました。
僕は日本人で、男性で、既婚者で弁護士で、言ってしまえばマジョリティの属性を全部持ってしまっているわけです。そうすると、マイノリティの方が直面している現実がどうしても視野に入りにくい。コメンテーターなどで活躍してる三輪記子弁護士も「セクハラを受けたらすぐ相談に来い」とSNSで発信してますし、つまり弁護士業界でも、セクハラは「ある」ってことなんですよ。僕にはそれが見えてないだけで。
――弁護士になってからの仕事も男女で差があったりするんですか?
國本 たとえばDV離婚事件って非常に危険で、弁護士が仕事で恨みを買って殺されるような事件は、離婚が多い印象が僕にはあります。DV男性は権威主義的で、女性弁護士が相手だと攻撃性を抑えられない人たちがいる。だからそういう離婚案件は男性弁護士が担った方が良いと思うんですが、女性弁護士が担当することが多い。
DV離婚案件ってそもそも手間がかかるわりに利益率が低くて、弁護士にとってはそんなにやりたくないんですよ。でもそんな危険で儲からない離婚事件や女性の性被害事件を、社会的な使命感で女性弁護士が引き受けてくれている現状があります。