寅子の言い方が「法律は~」から「法は~」に変わる意味

――言葉の1つ1つが法律では厳密ですよね。

國本 そうですね。「法律」と「法」も、『虎に翼』はかなり意識的に使い分けている気がします。

――法律と法……どう違うのでしょう?

國本 「法律」は国会が作った条文そのもので、条約や憲法のような上位のルールによって縛られているし、選挙で選ばれた国会議員が変えることができる。極端に言えば「悪い法律」だってあります。

 でも「法」は法律を含むあらゆる法規範を指すこともあれば、「正義と公平の人類原理」を含む法律より上位の法規範を指すこともあります。『虎に翼』の中でも、寅子たちは、最初の頃は「法律は~」と発言することが多いんですが、徐々に「法は~」と言い方が変わっていく。これは、寅子の視点が法を学ぶ専門家のそれになったことを意味してると僕は思いました。

――それは気づきませんでした、寅子の法に対する理解が深まっていることが言葉に現れているんですね。

國本 寅子の言葉の使い方が変わったのは、僕の見たところでは、「物品引き渡し請求事件」の判決の後、法廷の階段を降りてきたときからです。以後、寅子ら登場人物たちは場面ごとに「法」を主語にしたり「法律」を主語にしたりしますが、自分はそれぞれ脚本家が明確な意図を持って台詞を使い分けていると感じました。ただ残念ながらこの時点では日本の最高法規は大日本帝国憲法なので、厳密には市民国民の人権を保障していないし、女性の権利を保障している「法」ではありません。

 他方、現在の最高法規である日本国憲法の98条第1項は「この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、勅令及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない」としています。つまり、日本国憲法の根本にある正義や公平に反するルールは、たとえ「法律」として国会で作られても全部無効だということになったわけです。

――それが、1話の寅子の涙につながるんですね。

國本 戦後にできた日本国憲法は、14条や24条により、寅子や同級生その他登場人物たちを苛んできた戦前の家制度を復活させることをできなくしてあります。たとえ法律でもできません。具体的な人たちの顔を思い浮かべて、そのような時代が来たことに寅子は涙を流しているのだと思います。

 ただ新しい憲法が公布されても終わりじゃなくて、それを実際に主張して、裁判をして、形にしてきた人がいて、これからもそれを続けていく必要がある。『虎に翼』は、その地道な過程がわかるように1つ1つシーンやエピソードを積み上げています。どこまで凄いドラマなんでしょうね、これは。

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