日本のアニメと“出稼ぎ労働者”の影響

一方、サウジアラビアやUAE(アラブ首長国連邦)のような、経済発展著しいペルシア湾岸諸国に対しては、イラン人はかなり屈折した感情を抱いている。

同諸国の国力は、イスラム革命まではイランに大きく水をあけられていた。しかし、革命後、イランが反米に転じると、その対岸に位置していた国々は米国との関係を強化することで経済発展を実現、結果としてイランとの立場は完全に逆転することになった。

では、欧米も中露も中東諸国も嫌いなイラン人は、どの国が好きなのだろうか。これは客観的に言って日本である。イランが親日である理由はさまざまあるが、イランは付き合いの深かった国とは関係が悪化しやすい傾向にある。

ただ、親日である理由はそれだけではない。

イランでは黒澤明の映画作品や、『おしん』などのドラマがテレビで放送されていたこともあり、日本人の生活や文化に慣れ親しんでいる人も多い。そして、なんといっても大人気なのが日本のアニメだ。『千と千尋の神隠し』などの映画作品や、『ワンピース』や『呪術廻戦』などのテレビアニメは人気が高く、イランの若者たちはそれらの作品を違法サイトでダウンロードして楽しんでいる。

写真=AFP/時事通信フォト
2001年6月10日、日本のアニメーション映画監督、宮崎駿の写真(左)と、同年7月公開の最新作『千と千尋の神隠し』のポスター。

また、1980年代の終わりに日本にやってきたイラン人労働者たちの存在も大きい。彼らは日本人の礼儀正しさに感銘を受け、帰国してからもその感動を家族や友人に繰り返し伝えてくれていたようである。

日本における知名度の低さに愕然とするイラン人

イラン人が日本人に並々ならぬ信頼を寄せ、日本文化に対しても熱い視線を注ぐ一方で、われわれ日本人の大半は、おそらくその十分の一ほどもイランに関心を持っていない。私はこれを「壮大な片想い」と呼んでいるが、本当に残念なことである。

はじめて日本に来たイラン人は、この国でのイランの知名度がいかに低いかを知り、愕然とする。

彼らはまず、「イラン」と「イラク」の違いを説明するところから始めなくてはいけない。これはわれわれが外国人に、日本と中国の違いを説明させられるようなもので、面倒というよりは屈辱的である。そして、なんとかイランとイラクが別の国だということを分かってもらえたとしても、大方の日本人の頭には「イスラム」と「砂漠」くらいしか浮かんでこない。

だから、イラン人女性が日本でスカーフをかぶっていないと訝しがられたり、イランにも電子レンジがあると言えば腰を抜かされたりする。