――それに対してなぜ日本の作品は映像から原作を読む流れができた?

いろいろ考えられるが、1つには日本の漫画は例えば『ONE PIECE』の原作なら尾田栄一郎さんが描いた作品を読めばよい、という分かりやすさが挙げられる。DCやマーベルは同一のヒーローが登場する「原作」が多くあり、どれを読んだらいいか迷いがちだ。ただ裏返すと、アニメになっていない日本の漫画は売れづらいという事情もある。

――集英社が「マンガプラス」というアプリ・ウェブサービスで週刊少年ジャンプの人気作を配信するなど、紙媒体以外での海外展開も日本の大手出版社は行っている。マンガプラスは22年時点の月間アクティブユーザー数が600万人に達しているという。こうしたサービスでは映像化されていない作品も読まれている?

基本的にウェブ展開でもアニメになった作品のほうが、食い付きが良いはずだ。紙の雑誌と同じように、軸となるアニメ化作品があり、そこから他の作品へと誘導していく、という構造になっているのではないか。

――マンガプラス(冒頭数話や最新話が無料)の読者は日本のファンほど電子書籍は購入せず、紙の単行本を購入することが多いという。これは海外では一般的な傾向か?

アメリカでの実態を考えれば、かなり納得感のあるデータだ。コレクターズアイテムとして紙の単行本で本棚を埋めたいファン心理がかなり強い。若いデジタル世代だからこそ物理的な商品への関心が高いこともあるだろう。だから中古本取引や転売も活発で、出版後すぐに高値が付く商品もアメコミより多い印象だ。『トライガン・マキシマム』の単行本に1冊135ドルの高値が付いていたのを見て驚いたことがある。

――日本の漫画のファンは若い世代が多い?

そうだ。(現在40~50代の)X世代かそれより若い層が大半だろう。中南米や欧州、アジアなどでは数十年前からアニメなどを通じて日本のカルチャーを受け入れる土壌が育ったが、北米では00年代までは広く浸透しているとはいえなかった。

だが、X世代以降の人々は「ファイナルファンタジー」シリーズや『ストリートファイターII』など日本のゲームの世界的ブームの直撃を受けた世代。ケーブルTVを通してアニメを見たり、ネットを経由して日本のオタク文化に接することがあったが、ゲームに関しては北米の家電量販店でも必ずといっていいほどこれらの作品が売られており、そこで日本的なキャラクターの絵柄やけれん味のあるストーリーに初めて接した人は多いと思う。

この下地ができたところに近年、米最大の書店チェーンのバーンズ&ノーブルなどが大量に漫画を仕入れ始め、作品を気軽に購入できるようになった。それが北米の昨今の漫画ブームを準備したと考えている。