トランプが乗じた米国社会の亀裂とは
日本での三権分立は、立法を議会、行政を内閣が行い、司法は政治から独立した憲法の守り神、すなわち「アンパイア」として裁判を行うと考える。
しかし、アメリカの憲法学者の考えは少し違うように見える。アメリカ建国時には、立法と行政の間で意見の相違が生じると予想された。そこで、両者が互いの利害を調節する「ゲームのルール」として憲法はつくられたのだ。最高裁も単なる憲法の守り神ではなく、政治的な「プレーヤー」の一員なのである。
ジョン・ロバーツ最高裁長官は、基本的には保守派に属する判事であるが、判事間で意見が分かれるときには、自分が決定権を握りたいように見える。トランプ在任時代に、最高裁で共和党系の判事が3名任命された。今までのところ、先述のトランプの「扇動」について、コロラド州はトランプの出馬資格を奪う判断を示したが、最高裁がそれを認めない姿勢を示したのが関与したケースである。
読者に伝えたいのは、アメリカ社会においてトランプが選ばれた理由は、彼の型破りな個性だけではないということだ。アメリカの人種社会の中にトランプの政治スタイルを歓迎する根強い基盤がある。男性社会、白人社会への回帰を求める心は簡単にはなくならない(日本の男性社会でも同じで、一定限度までは、家庭でも、職場でも男性を立ててくれる社会は、一部の男性にとって心地よいのだろう)。
そもそも、アメリカという国が黒人の労働力に依存したプランテーション経済から始まっているため、アメリカの人種問題は建国から一種の「原罪」としてつきまとっている。市民権運動、そして公民権運動などリンドン・ジョンソン元大統領の「偉大な社会」の動きを経て、人種が統合された世界の建設がうまくいっていたように見えた。
しかし、成功しつつある統合社会に水を差し、白人支配、男性支配の世界をもう一度つくり出そうとするのがトランプの動きである。アメリカにつきまとう社会の亀裂を利用して、彼は政治的地位を積み上げてきたのである。
米国人の妻が日本語を急に熱心に勉強しだした。「トランプが大統領に再選されたら私、日本に国籍を移そうかしら」と言う。単に冗談とは言えない時世である。