しかし日本では、夜鳴き問題の最後の砦とも言える声帯切除を引き受ける獣医師は少数派。「欧米では動物虐待にあたるから」等の理由で、以前は行っていたがやめたという獣医師もいる。結果、どうしようもなくなった飼い主が、愛犬を泣く泣く動物愛護センターに引き取ってもらい殺処分(※)という事態も起きている。

※筆者註:2012年の法改正によって、センターは安易な理由での引き取り要請を拒否できるようになり、センターでの殺処分は減っています。

追い詰められて病院に来る人が大多数

ペットの高齢化の問題に詳しい帝京科学大学の佐伯潤教授は、早目の対処の重要性を強調する。

「治療するための“早目に”ではありません。要するに、備えるということです。大多数の場合、飼い主さん的にも犬的にも、追い詰められて病院に来るんですよ。でも、早目に心構えや対応の仕方を決めるなどをしておけば、場合によっては治療をしなくても対処できる」

というのも、人の認知症同様、犬の認知症についても研究が進み、いろいろなことがわかってきているからだ。

「たとえば夜鳴きにしても、むやみに鳴いているわけではなく理由がある。体が痛いとか、不自由だからやってほしいことがあるとか、寂しいから傍にいてほしいとか。情動という心の動きから鳴いているので、そこを理解して、上手く接すれば、症状をエスカレートさせずに済むんです」

だから、ちょっとおかしくなってきたら、どういった対処をしたらいいのかを早めに、かかりつけの獣医師以外にも、老齢動物の介護に詳しい獣医師や、犬の行動学の専門家に相談するよう佐伯教授は勧める。

筆者撮影
帝京科学大学の佐伯潤教授。

早期治療で治る病気もある

一方で、これもまた人間の認知症と同じで、犬の認知症も原因がよくわかっていないところもある。

たとえば人間の認知症には、アルツハイマー・レビー小体・血管性に分類される三大認知症があるが、犬の場合も、脳血管障害に起因する認知症があると言われており、この認知症は治療が可能だ。

体の不調で動けないことが、認知機能の衰えを加速させている場合には、不調の原因を治療し、動けるようにしてあげることで、認知機能が改善することもある。

「犬にしてみれば、体の自由が利かないから、なんで僕は動けないんだとか、あっちに移動したいのに行けないとか、いろんな理由があって鳴いている。それなのに、多くの飼い主さんは、単純に年を取ったせいで動きがにぶいとか、寝ているんだとか判断し、異変のサインを放置してしまいがちです」