バラエティに感動を持ち込んだ

これ以降、バラエティの世界で感動の要素が欠かせないものになった。従来バラエティ番組はとにかく無条件に笑えるものがよく、感動とは相容れないというのが常識だった。

ところが、このヒッチハイク企画はバラエティに感動があってよいことを証明した。放送後に、実は政情不安定な地域を飛行機で移動していたことが明らかになったが特に大きな問題にはならなかった。すでにテレビと視聴者の“共犯関係”が成り立っていて、これはバラエティであり、そのうえでの感動なのだという認識が広く共有されていた。

この成功をきっかけに、テレビバラエティの世界では、「未来日記」(「日記」に書かれた台本通りに演じることで恋愛感情が芽生えるかを一般男女で実験する企画)をヒットさせた『ウンナンのホントコ!』(TBSテレビ系)や「ガチンコ・ファイトクラブ」(喧嘩自慢の元不良たちを集め、ボクシングのプロテストを受けさせる企画)が有名な『ガチンコ!』(TBSテレビ系)など、「ドキュメントバラエティ」と呼ばれる一群の番組が生まれた。いずれも感動できるバラエティとして人気を集めることになる。

元首相の眉毛を切る企画

『進め!電波少年』は、開始当初から予定調和にだけはしないというポリシーを貫いていた。それゆえ、そこでも次々と「事件」が起こった。

松村邦洋や松本明子も、MCという肩書でありながら数々の番組からの無茶ぶりに挑んだ。

主に松村担当だった体を張る企画はそのひとつ。「渋谷のチーマーを更生させたい!」という企画では、センター街にたむろするチーマーのなかに松村が単身飛び込んだが、逆に連れ去られそうになるなどひどい目にあった。

「地球温暖化を食い止める」という名目で、メタンガスが多く含まれる牛のゲップを直接吸い込んで悶絶したこともあった。まさに命がけである。

事前の約束なしに有名人に突撃する、いわゆる「アポなし」企画も過激だった。

相手が政治家であってもお構いなし。首相にもなった村山富市のトレードマークは長く伸びた眉毛。松村がいきなり村山のもとを訪れ、その眉毛を切らせてほしいと懇願する。すると村山は困惑しつつも、結局左右両方の眉毛を切ることを許してくれた。

第81代内閣総理大臣 村山富市(出所=首相官邸ホームページ