「いい子」に育てようとすることの危険性

「健全な子育て」によって、親の期待する役割を演じることに耐えられなくなった子どもたちが犯罪者になる傾向について論じた、岡本茂樹著『いい子に育てると犯罪者になります』(新潮新書、2016)の主張は、決して大袈裟とはいえない。

筆者はこれまで3000件以上のさまざまな状況にある加害者家族から相談を受けているが、子どもが事件を起こした家庭は、意外にも、子どもを甘やかしたというより、どちらかと言えば、厳しくしつけている家庭の方が多いのだ。「いい子」を強いられる子どもは本音を出せず、隠れたところで加害行為に及ぶことがある。

聖也(15歳)の両親はふたりとも教師で、子どもたちのしつけには厳しかった。聖也は学校の成績もよく、面倒見のいいリーダータイプだったが、あろうことか、近所の知的障害を持つ女子児童・真実にわいせつ行為をしていたことが発覚した。

「とにかく、困った子がいたら助けてあげなさいっていつも教えてたんです。真美ちゃんのこともよく面倒を見てあげてたはずなんですが……。まさかうちの子が、被害者になることはあっても、加害者になるなんて……」

聖也の両親は、現実を受け止められずにいたが、同級生の一部は、相手を見て態度を変える聖也の「裏の顔」に気が付いていた。

厳しいしつけは子どもの加害性を育てるおそれも

岡本氏は、子どもを犯罪者にしないためには、厳しいしつけより、子どものありのままを受け止めることの重要性を説いている。しかし、世間の常識は、前者に価値を置く傾向にある。

家庭での虐待や学校での体罰が見過ごされていた時代、暴力やプライバシー侵害もしつけや教育として正当化されてきた。それゆえ、事件が発覚した時の家族の衝撃は大きく、加害性の認識が欠けている親たちも少なくない。家族の意識がそうであれば、子ども自身も原因を掘り下げず、同じ問題が繰り返されてしまう。

日々、世間を騒がせている事件について、加害者側を批判するだけではなく、自らの子育てを振り返るきっかけにしていただきたい。

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