武田薬品の「QDENGA」
そんな状況下でブラジル国家衛生監督庁(ANVISA)は昨年3月3日、デング熱ワクチンとして唯一、武田薬品工業の「QDENGA(キューデンガ)」を認可した。また同年12月22日、世界で初めて公共保健医療施設でデング熱の予防接種を無料で行うことを発表した。
QDENGAは、デングウイルス全4種により引き起こされるデング熱の予防を目的としたワクチンで、ブラジル保健省は4~60歳までを接種対象として承認した。国際臨床試験において高い有効性が確認されており、デング熱患者増加による医療施設への負担を軽減することが期待されている。
デング熱ワクチンは、フランス大手製薬会社のサノフィが先行開発していたが、感染歴のない子供が接種した場合、感染後に逆に重症化する事例があり、普及が進まなかった。
これまでのデング熱対策は、ボウフラ(蚊の幼虫)が発生しやすい水たまりなどを作らないよう市民に注意喚起するか、感染件数の高いエリアに殺虫剤を散布するしか手がなかった。QDENGAのワクチン無料接種は住民にデング熱への抗体を持たせる社会的免疫を促す画期的な施策なのだ。
ワクチン開発において日本は欧米の後塵を拝している。しかし、ことデング熱においては、世界保健機関がQDENGAを推奨していることもあり、武田薬品の独擅場となりそうだ。ブラジルのほかに、インドネシアやEUでも承認されており、同社はQDENGAの年間売り上げを20億ドル(約3000億円)と見込んでいる。
デング熱ワクチンの無料接種が始まった
2月下旬、いよいよデング熱ワクチンの予防接種キャンペーンが始まった。ブラジル全5565の市町村のなかから保健省が選定した521の自治体を対象とし、未成年から接種が行われた。
サンパウロ近郊のスザノ市では、2月20日から市内の24カ所の保健所で接種が始まった。スザノ市は、サンパウロ州に先駆けて2月14日にデング熱による緊急事態宣言を発出した。
キャンペーン2日目、小学6年生のアナ・ラウラ・シマンスキ・デ・オリベイラさんは母に連れられて市役所脇の保健所にデング熱ワクチンを接種しにきた。
「市役所のフェイスブックで予防接種ができることを知り、娘を連れてきました」と母親のカリーナ・ジオゴ・デ・オリベイラさん。昨年、カリーナさんの叔母がデング熱を患ったこともあり、娘にいち早くワクチンを接種させたくて保健所に駆けつけたという。
キャンペーンはまず同市在住の10、11歳を対象としているが、「成人の番が回ってきたら私も早く打ちたい」とカリーナさんも期待を寄せる。
同市保健局はワクチンキャンペーンの宣伝と普及のため期間限定で市内の大型ショピングセンター構内でも予防接種を行った。