箱根駅伝でアディダスの「8万円モデル」が爆走

一方、アディダスはシューズシェア率でアシックスに抜かれたものの、箱根駅伝は前年(18.1%)とほぼ同数の18.2%。走りのインパクトではナイキ以上だった。

昨年9月のベルリンでティギスト・アセファ(エチオピア)に2時間11分53秒という驚異の女子マラソン世界記録をもたらした8万円超モデルの〈ADIZERO ADIOS PRO EVO 1〉(以下EVO 1)を着用した青学大のWエースが爆走したのだ。

目立ちたがり屋の太田蒼生(3年)は、「世界記録が出たときは日本にはまだ入っていなくて、世界でも数が少ない(※当時は世界で限定174足)と聞いていたんです。でも入手できたら『絶対に履こう』と決めていました」とEVO 1で勝負する気持ちでいたという。噂のモデルを入手したのは直前の12月中旬だったが、迷うことなく、正月決戦で着用した。

EVO 1は〈ADIZERO ADIOS PRO 3〉をベースにしたモデルで、約40%の軽量化に成功。中足骨をヒントに調整された5本のカーボンスティックを搭載した厚底モデルながら約138g(27cm片足重量)しかない。

「軽さが抜群に違っていて、履いていても、シューズ(の重さ)がまったく気になりません。走った感触としては、PRO 3はどちらかというとクッション性がやや少なくて反発がある感じなんですけど、EVO 1は沈んだ分、反発が強く返ってくる。凄いペースでいったんですけど、後半にも余力があったのは、シューズのおかげでもあるのかなと思います」

EVO 1を着用して3区に出場した太田は、10kmを27分26秒という驚異的なペースで通過すると、2年連続の駅伝3冠を目指した駒大を大逆転。3区の日本人最高記録を1分08秒も塗り替える59分47秒で突っ走った。

青学大は花の2区に抜擢された黒田朝日(2年)もEVO 1を着用していた。権太坂(15.2km地点)の通過はトップ駒大と1分05秒差だったが、後半がとにかく強かった。

「沿道から『前と1分差だよ』という声が聞こえてきたときは、優勝はちょっと無理そうだな、と一瞬思ったんです。でも権太坂の上りくらいから、自分のなかで動きが良くなったというか、上がってきた感覚がありました。その後は、タイムや順位の意識はあまりなくなって、本当に自分の走りに集中できたのかなと思います」

撮影=酒井政人
左が青学大の太田蒼生選手、右が黒田朝日選手

歴代のエースたちを苦しめてきた“戸塚の坂”で駒大に急接近。最後は13秒まで詰め寄り、区間歴代4位の1時間06分07秒で区間賞に輝いた

「ラスト3kmを切ってから駒大が見えてきたので、1秒でも縮めたいという気持ちだけで走りました。終盤まで余力を残して走れたのは、シューズの恩恵があったのかな。クッション性と反発力はこれまでに履いてきたシューズのなかで突出しているのかなと思います」

箱根駅伝2区で8人抜きを演じた國學院大學・平林清澄(3年)もアディダスを着用する選手だ。箱根はEVO 1ではなく、さほど厚くない〈ADIZERO TAKUMI SEN 9〉で1時間06分26秒(区間3位)と快走したが、同モデルで出場した大阪マラソン(2月25日開催)で関係者の度肝を抜いた。なんと初マラソンで日本最高&日本歴代7位の2時間06分18秒で優勝したのだ。

こうした実績を残しているアディダスもナイキを追い落とすのに十分なポテンシャルがあると言えるだろう。