映画『ペ子ちゃんとデン助』で笠置が歌うシーンは原曲のまま

だから舞台で「買物ブギー」を歌うとき、履いていた下駄が割れたことが何度もあった。笠置は1949年の日劇「ホームラン・ショウ シヅ子の応援団長」でも、「ホームラン・ブギ」を歌っていて勢い余って舞台から落ちたことがあるが、何事にも全力投球する笠置を物語るエピソードだ。とくにブギを歌うとき、彼女のマネジャーはいつも舞台の袖で構えていて、舞台の端から端まで走って来る笠置の身体の、文字通り“受け止め役”だった。そうしないと笠置がそのまま突っ込んで倒れてしまうこともあるからだ。

写真=プレジデントオンライン編集部所有
映画『ザクザク娘』(1951年)、『ペ子ちゃんとデン助』でコンビを組んだ笠置シヅ子と堺駿二(左)が再び組んだ。中央上は若原雅夫

とはいえ、名曲は長く歌い継がれてほしい反面、美空ひばりの歌を他の歌手が歌ってもほとんどがっかりするように、笠置シヅ子の歌を誰かが歌い継ぐことはなかなか難しい。一度でいいから、買い物かごを手にエプロン・下駄履き姿の笠置の「買物ブギー」を生の舞台で観てみたかったが、それも叶わない。唯一、映画『ペ子ちゃんとデン助』で笠置が歌うシーンが残されている(同じシーンを1950年松竹映画『懐かしの歌合戦』で再使用)。

後年、原曲歌詞から消えてしまった2つの言葉

映画では、潰れかけのカストリ雑誌『フラワ』編集者の大中ペ子にふんする笠置が、洒落たマーケットで買い物をしながら「買物ブギー」を歌うシーンがある。約4分間。私は最近この動画シーンを観て、3分余りに縮小されたレコードやCDは本来のものではなく、ある部分がカットされたものだったことがわかった。

SPレコードの片面はもともと3分前後しか入らないのでカットされたという理由もあるが、フルバージョンの「買物ブギー」には、今まで聴いていたもの以上の魅力があり、まさに衝撃的だった。時代を超えた新鮮さと同時に、半世紀以上の時代の価値観の違いが歴然として浮かび上がったのだ。

そこには強烈なインパクトと、現代の私たちに向けた深いメッセージがあった。だがこの「買物ブギー」は不幸なことに、発表当時は大ヒットしたにもかかわらず、突然ある時期から歌われなくなったり、歌詞のある部分が削除されてしまうのである。おそらく誰もが知っているように、歌詞の中に「つんぼ」という言葉が出てくる。

「オッサンオッサンオッサンオッサン――わしやつんぼで聞こえまへん」

実は、歌はこれで終わるのではない。映画ではこの後、ペ子ちゃんは向かいのおばあさんの店に行く。

「そんなら向かいのおばあさん わて忙しゅうてかないまへんので ちょっとこれだけおくんなはれ 書き付け渡せばおばあさん これまためくらで読めません。手さぐり半分なにしまひよ」

というフレーズがあって、

「わてほんまによう言わんわ わてほんまによう言わんわ ああしんど」

で終わる。

(編集部註:おばあさんとの会話はレコードに収録されていない)