1950年当時の流行歌には差別用語という考え方がなかった

「つんぼ」や「めくら」は、現代では障害者差別用語とされている。私もそうした言葉を使うのは適切ではないと思う。だが少なくとも1950年当時の社会はそうではなかった。文学や映画も同様で、とくに流行歌は時代を映す鏡だ。歌詞に、今でいう差別用語が使われた流行歌は何も「買物ブギー」だけではない。

それらの歌詞が使われた歌はみな、発表当時は何の指摘もなかったのに、いつの間にか歌われなくなったり、歌詞が変更されたり、削除されたり、曲そのものがメディアから姿を消した。実はそれらの歌が、障害者や人権団体から抗議を受けたわけではなかった。

「買物ブギー」は50年にSP盤で発売されたが、55年にEP盤(45回転モノラル)で復刻されたものにはまだ「つんぼ」は削除されていない。ベトナム戦争が始まった60年代後半から70年代にかけて、政治的な反戦歌や反部落差別などをテーマとした歌が作られるが、それらはレコード会社や放送局など、メディアの自主規制で発売禁止・放送禁止の烙印らくいんを押されたのだ。

1970年代以降になって初めて「不適切」とされ放送禁止に

そして1980年代になって、レコード会社がかつての名曲を復刻する際に不適切な言葉を探し出し、自主的にカットしたのである。この時期に「買物ブギー」の「つんぼ」が削除された。他に、たとえば丸山明宏(美輪明宏)が1964年に発表した「ヨイトマケの唄」は、70年代に歌詞の“土方”が不適切だとして放送禁止になったが、今ではこの歌は人々を感動させる名曲と認められている。

「買物ブギー」は名曲であることをみんなが認めている。このこと自体は悪くないのだが、「つんぼ」が抜け落ちると「わしゃ聞こえまへん」となって、なんとも収まりが悪い。

そもそもこの歌のテーマやオリジナリティーは、人権擁護の理念と対立などしていないのだ。服部と笠置が、“つんぼ”や“めくら”の老人を差別するためにこの歌を作ったのではないことは明白なのだから。

「買物ブギー」は今聴いても実に楽しい歌だ。私が願うのは、現在の歌手が歌い継ぐ場合は別として、笠置が歌うCDの「買物ブギー」を、映画で歌われたものと同じフルバージョンで完全に復活させてもらいたいし、映画『ペ子ちゃんとデン助』もぜひともノーカットでリバイバル上映してほしい。むろん差別は否定した上で、作品のオリジナリティーの重要性など、何らかの説明は必要だろう。