条件は同じでも「0円」で手に入る物件も

一方で、前述のように昨今では千葉県の限界分譲地も、「0円物件」として、無償譲渡物件を専門に扱うサイトに登場する事例も多くなった。

無償で土地が手に入るともなればさすがに注目も集めるようでその反響は大きく、掲載開始後ただちに多くの応募申し込みがあり抽選が行われているのだが、0円で放出される土地も、高値すぎて長年売れ残る土地も、はたから見れば利便性や条件に大差があるようには見えない。

統一された相場が形成されない最大の原因は、やはり土地所有者の大半が、その地域に居住もしていなければ足を運ぶこともない、投機のみを目的とした購入者だったことにあるのは間違いない。

今頃になってなおも高度成長期やバブル期以上に高値で売却できることを期待している方はさすがに少数派であるとは思うが、開発から半世紀の時を経て、世代交代も進み、それぞれの区画所有者同士に何の交流もない分譲地で、高齢世代の所有者が、自力でその土地の実勢相場を正確に掴むことは容易ではないだろう。

千葉特有の「草刈り業者」という大きな存在

そしてもうひとつ重要な視点として、千葉の限界分譲地の場合、そうした相場観を持ち合わせない所有者による非現実的な希望価格であろうと、適正価格へ是正する働きかけが鈍くなってしまう特殊な市場構造があることを指摘しなければならない。

千葉の限界分譲地の光景を特色づけるもののひとつに、各区画に立てられた小さな看板の存在がある。どの立て看板も、「○○様所有地」と所有者の名字を明記したうえで、その下に社名や、場合によっては「売地」などの文言も添えられていたりすることもあるが、これらの立て看板の多くは、「草刈り業者」と呼ばれる遊休地の管理会社のものである。

区画のほとんどが空き地の限界分譲地とはいえ、多くの分譲地には今もわずかながら住民が暮らしている。空き地は放置すればたちまち雑草が繁茂し、長年経過すれば雑木まで生え、隣地や道路上にまで越境してしまう。

長年放置されている空き区画。更地の状態で分譲されたはずだが、今は雑木が生え、足を踏み入れる余地もない。(出所=『限界分譲地』)

その除却は当然土地所有者の責任となり、時には近隣住民からクレームが入ったり、地元自治体からの是正指導が入ったりするのだが、刈払機などを使う機会が少ない都市部在住の土地所有者が、定期的に現地を訪問して草刈りを行うのは重い負担なので、そうした不在地主に代わって、年2回ほどの頻度で草刈りを行う事業者が、千葉県の郊外だけでも複数存在する。