人生最後のときを、病院や施設で迎えたいか、自分の家で迎えたいか。私はホスピス医として、患者さんの優先順位を尊重することを、非常に大事に思っています。
なぜなら、心身が弱っている人、苦しみを抱えている人の優先順位を尊重することは、その人の尊厳を守ること、その人を肯定することでもあるからです。
誰かの尊厳を守る、誰かを肯定するというのは、ただ権利や気持ちを尊重し、認めることではありません。
その人の、どうしても譲れない優先順位を守ること、どうすればその人が穏やかになれるかを考えることだと、私は思います。
そして人は、自分が苦しいとき、自分を否定する気持ちが強いときに、自分の優先順位を尊重してくれる相手を「誠実な人」「信頼できる人」「自分の気持ちをわかってくれている人」と感じるのです。
自分の優先順位を理解してくれる人を大切にしてほしい
苦しいとき、切羽詰まっているとき、自分を肯定できずにいるとき、自分の優先順位を尊重してくれる人、自分の生き方を応援してくれる人がいるなら、その人は幸せです。
みなさんも、ご自身のことを考えてみてください。
仕事の予定と、恋人との約束がバッティングし、「今回はどうしても仕事を優先させたい」というとき、「どうして自分の約束を軽んじるのか」と怒る相手よりも、あなたの仕事を心から応援し、「自分との約束は今度でいいから」と言ってくれる相手に、「自分の気持ちをわかってくれている」と感じるのではないでしょうか?
逆に、仕事の予定と子どもの学校の行事が重なり、「今回はどうしても学校の行事を優先させたい」というとき、「仕事を優先しろ」という上司より、「仕事は明日でもいいから、今日は学校へ行きなさい」と言ってくれる上司に対し、「自分の気持ちをわかってくれている」と感じるのではないでしょうか?
また、健康で体力があるときは、自分一人である程度大事なものを守ることができるかもしれませんが、老いや病気により体の自由がきかなくなると、誰かの力を借りなければならなくなります。
大事なものであればあるほど、誰にでも任せるというわけにはいかないため、不安になったり焦ったりする人もいるでしょう。
しかしそのようなとき、自分の優先順位を理解してくれる人がいれば、人は安心してその相手の力を借り、穏やかな気持ちになることができます。