私たちは、仕事や介護にいのちを燃やすお二人を静かに見守り、ときには丁寧に話を聴きました。
やがて、その患者さんたちは、満足しきった穏やかな表情でこの世を旅立たれました。
人それぞれ、大事にしたいことも、望む「ありのまま」の形も異なります。世間でいいとされていること、大事にするべきだとされていることが、必ずしもその人にとっていいわけではなく、大事なものであるともかぎりません。
人生は、自分を理解してくれる人を探す旅
そして、親でもパートナーでも友人でも、あるいはペットや先に亡くなった誰かでも、自分の気持ちをわかってくれていると思える存在がいるとき、私たちは安心して、ありのままの自分でいることができます。
私たちが自分らしくいられるのは、誰かがわかってくれるからなのです。ですから、多くの人は、大変な時間と労力、エネルギーを割いて、自分の気持ちをわかってくれる人を探そうとします。
人生は、自分を理解してくれる人を探す旅であるといえるかもしれません。
患者が心を開き、前向きになる瞬間
人が、誰かに対して「この人は、自分の気持ちをわかってくれている」と感じるのは、一体どのようなときなのでしょうか。
ホスピス医としてこれまで4000人以上の患者さんを看取ってきました。多くの患者さんと関わる中で強く思うのが、特に、苦しみを抱えている人は、誰かが自分の話を丁寧に聴いてくれたとき、そして自分が大事にしていることを相手が尊重してくれたときに「自分の気持ちをわかってくれている」と感じる、ということです。
人は誰でも、心の中で、必ず「何を、より大事に思うか」「何を、より優先させるか」といった順位づけをしています。
たとえば、仕事とプライベート、どちらを大事にするか。
お金とやりがい、どちらを大事にするか。
AさんとBさん、どちらとの約束を優先させるか。
ふだんは複数のことを同じように大事にしていても、人生において必ず、いずれかを選択しなければならない局面がやってきます。
そのとき、人は誰でも、迷った末に優先順位を決めるはずです。
優先順位を尊重することは、その人を肯定すること
老いや病気により体が弱くなったり、この世を去るときが近づいてきたりすると、一人でできることも残された人生の時間も限られてくるため、優先順位をつけることを、ますますシビアに求められるようになります。
たとえば、体を動かすのがしんどくなったとき、それでもトイレに行って自力で用を足すことを優先するか、部屋にポータブルトイレを置く、おしめをつけるなど、人に頼ることを選ぶか。