筆者も「川勝知事のウソ」をうのみにしてしまった

リニア南アルプストンネル静岡工区は、ユネスコエコパークの移行地域(自然と調和した地域発展を目指す地域)に当たり、県自然環境保全条例で担保されている。県条例は、工事届出の要件が整っていれば、地域の発展に寄与するリニア工事を何ら規制することはない。

だから、南アルプス保全を唱える知事の「腹案」とは、「JR東海が南アルプスの世界遺産登録推進に全面的に協力すること」と推測した。

それであれば、「リニア開業と南アルプス保全の両立」につながるからだ。

もともと2007年2月、静岡市、川根本町はじめ静岡県、山梨県、長野県の10市町村が「南アルプス世界自然遺産登録推進協議会」を設立した。

当時、地元は「世界遺産」ブランドによって、南アルプスの魅力を高め、地域振興を図りたいという意向が強かった。

それだけに、南アルプスをどのように保全していくのかというコンセプトには欠けていた。2014年のユネスコエコパーク登録で、世界遺産運動そのものが消滅してしまった。

「南アルプス保全」にこだわる川勝知事だから、世界遺産レベルの保存管理を必要としているのでは、と推測した。

リニア工事は南アルプスの世界遺産登録に影響しない

南アルプスの中心となる赤石山脈は1億年から3億年前の古い岩石でつくられ、2つのプレートの作用で現在も毎年約4ミリずつ隆起している。

赤石山脈と隣接する「フォッサマグナ」を発見・命名したドイツの地質学者ナウマンは「この地形は世界でここしかないまれな構造」と驚いている。

「世界唯一の大地溝帯」で日本列島の東西の地質を分断させ、3000m以上の数多くの山々が連なる赤石山脈は、フォッサマグナに乗り上げる逆断層の運動によって隆起したとされる。

いずれも「重要な進行中の地質学的・地形形成過程の特徴を持つ顕著な見本」「重要な地形的自然地理学的特徴を含む、地球の歴史の主要な段階を代表する顕著な見本」として、世界遺産の登録基準に当てはまるのだ。

写真=川根本町提供
世界遺産にふさわしい光岳周辺の自然

また川根本町の光岳てかりだけ周辺地域は、環境省の原生自然環境保全地域に指定され、立入禁止区域には貴重な自然環境が残されている。

当然、リニアが南アルプスの地下を貫通しても、南アルプス本体の価値を損なわなければ世界遺産登録に何ら支障はない。