『TVチャンピオン』がテレビ界に起こした革命

さかなクンが『TVチャンピオン』から誕生した背景には、この番組がテレビに起こしたひとつの革命があった。

テレビの本放送が始まって約70年。黎明れいめい期のころから、視聴者参加形式の番組も多いバラエティにおいては、素人が存在感を発揮してきた。ただほとんどの場合、素人はプロの芸人などから「いじられる」存在にすぎなかった。

1970年代に素人を積極的に起用して一世を風靡ふうびした『欽ちゃんのドンとやってみよう!』(フジテレビ系、1975年放送開始)など「欽ちゃん」こと萩本欽一による一連の番組が典型的だ。1980年代に入っても、基本は変わらなかったとみるべきだろう。

ところが、1992年に始まった『TVチャンピオン』は違っていた。この番組の素人は、「いじられる」存在ではなくなった。さかなクンのような特定の分野についてのきわめて豊富な知識や「和菓子職人選手権」の職人たちのような超絶技巧、さらには「大食い選手権」の参加者たちの人並外れた食欲など、誰にも真似できないような能力を披露して驚嘆される存在になった。

要するに、素人は「いじられる」存在から「すごい」存在になったのである。

東京都港区虎ノ門にあるテレビ東京本社ビル(日経電波会館)(写真=ITA-ATU/CC-BY-SA-3.0/Wikimedia Commons

素人そのものに焦点を当てた

世の中には、無名でも実はすごい特技を持った人たちがたくさん隠れている。『TVチャンピオン』は、そのことを知らしめる画期的な番組になった。それは、派手ではないがテレビ史におけるひとつの革命、静かな革命だった。

宮澤正之少年は、そうした「すごい」素人の申し子的存在だった。漁師や水産試験場の職員は、仕事として魚についての知識を身につけた人たちだ。

それに対し、宮澤少年は、物心ついたときから魚がただただ好きだったにすぎない。しかし「好き」という気持ちさえあれば、その道のプロも顔負けのここまでの存在になれる。

そのことを自ら証明したのである。どんなことであれ、好きな魚について話すときのさかなクンのこの上なく嬉しそうな表情を思い出してもらいたい。「好きこそものの上手なれ」とは、まさにさかなクンのためにあるような言葉だ。