血を分けた母であり妹であること

では「羞恥心」はどうか。

父親が亡くなったあと、高戸さんはますます母親と距離を置いた。一方、父親が亡くなるまで実家に寄り付かずに好き勝手に生きていた妹は、母親に異常に近づくようになっていた。

父親の葬儀から1カ月ほど経った頃、妹から連絡があった。

「お母さんが取り乱していてかわいそうなので、お父さんの財産はすべてお母さんに相続するようにしていい? 早く決めないと時間がないんだ。お姉ちゃんもそれでいいよね?」

「相続について調べると、夫が亡くなった場合、妻が半分。残り半分を子どもが分けて相続するとなっています。しかし私の実家では、“かわいそうなお母さんが全てを相続する”のだそうです。父の死後も引き続き疎遠を続けていた私は、煩雑な手続きを妹にさせているという負い目もあり、彼女の意見を受け入れてしまいました。この軽率な判断が後で長い怒りを生むことに当時は気づきませんでした……」

両親から甘やかされて育った妹は、思春期を迎えると反抗期に突入。夜遊びで家に帰らなくなると、両親は妹の監視を高戸さんに押し付けた。高戸さんは荒れる妹と戸惑う両親の間を取り持ち右往左往。やがて妹は芸術系の私立大学を中退すると、定職に就くこともなく遊び歩き、父親の反対を押し切ってフリーターの男性と結婚。実家の近くに住まいを構え、現在は衣食住から子育てに至るまで、母親にサポートしてもらいながら暮らしている。

「妹は父の死後、ろくに働いていないのに新車や家電などを次々に購入しました。今の妹は、周りからは親に尽くす孝行娘のように扱われ、自分でもそう思っているようです。『お姉ちゃんってさ、間も悪ければ要領も悪いんだよね』と、父の葬儀後、小ばかにしたように言った妹の顔は、十数年経った今も私の脳裏に焼き付いて離れません」

旦木瑞穂『毒母は連鎖する 子どもを「所有物扱い」する母親たち』(光文社新書)※刊行記念として漫画家・ライターの田房永子さん、漫画家・イラストレーターの尾添椿さんとのトークイベントを24年1月18日に開催

現在も高戸さんは、彼女らのことを考えただけで怒りが煮えたぎるという。

「母と妹は、“かわいそうな未亡人”と、“母を支える健気な娘”という己を正当化する”きれいな理由”で武装し、父の遺産を受ける権利を私から奪い取って独占して平気でいるのです。そんな彼女たちのあさましく醜い本性に、私はとっくに気付いているのに、彼女たちは相変わらずかわいそうな人・健気な人を演じ続け、それにひたすら酔いしれています。隠せている、騙せていると思っているのでしょうか? だとしたらバカすぎて言葉を失います」

高戸さんは「“あんなの”が自分の血を分けた母であり妹であるという事実が、現在進行形で私をいらつかせます」と、「羞恥心」以上に「嫌悪感」や「憎悪」をあらわにする。

「子どもに恵まれなかったことはとても残念でしたが、今考えると、あの不妊治療がきっかけで親の言動へ大きな違和感を抱き、私は親と離れるという決意ができました。家族や一族の異常性を直視すること、そして過去を振り返ることは大変な痛みや苦しみを伴いましたが、私の人生や生き方、そして親について考え直す大きなターニングポイントでした」

高戸さんは「ティーコ」という名前で、X(@teako_survivor)ブログを使い、毒親と離れても亡くなっても苦しめられ続ける子どもへの影響について発信を行っている。

この先、母親が財産や年金を妹に食いつぶされて悲惨な老後を過ごすことになったとしても、娘たちを所有物扱いした報いだろう。

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