徳島の赤字球団を代表就任1年目で黒字化に成功

実際、入社1年間は充実した会社員生活を送ることができた。ところが、野球の神様がまだ谷田を手放さなかった。在籍していた徳島から「経営スタッフとして戻ってきてほしい」と勧誘されたのだ。実はチームのオーナーとは退団後も定期的に強化方法などを話していた。ならば、さまざまな発想を直接実現してくれ、となった。商学部卒という学歴も功を奏したのかもしれない。

「球団を強くする、黒字化させることには興味がありました」

当時のショーケースの部長も先輩役員も、そういう思いがあるなら行ってきたらと、背中を押してくれたという。

肩書は取締役球団代表。部下4人でスポンサー営業が主な仕事だ。地方の独立球団のスポンサーになってくれる企業は多いとはいえない。何に対してならお金を出してくれるか。

「チーム動画のこの枠に広告を出しませんか」
「アスリートのこういうデータを生かして一緒に商品開発をしましょう」

そんな提案をしていった。徳島県知事とも面会し、ビジネスチャンスを探った。

写真提供=谷田成吾

YouTubeチャンネルもいち早く立ち上げ、再生回数を稼いだ。当時、コロナ禍で球場への入場規制もありYouTubeで試合中継の配信をしたのは独立リーグでは初めて。チャンネル登録数が当初は独立球団では1位だった。配信へのCM出稿も約15社が名乗りを上げたという。

いろんなトライが評判を呼び、現場の人材を募集するとインターン希望の全国の多くの学生が集まった。球団代表に就任した際、赤字が続いたままなら球団は継続できない、という瀬戸際だったという。文字通りの背水の陣で、コロナ禍での2、3年目も困難続きだったが、黒字化目指してがむしゃらに邁進した。

「めげることはなかったです。めげていてもお金は集まってこないので。思いついたことはやってみるという感じでした」

徳島の選手時代のファンに地元の経営者を紹介してもらったり、既存のスポンサーや関係者の力を借りて営業をしたりして、つながりを作っていったそうだ。そんな地道な努力が実って黒字のまま一区切りとして退任することになった。オーナーら関係者からは大いに感謝されたそうだ。

次へのステップはどうするか。

「徳島を立て直した立役者」に対して多くのアプローチがあった中、IT企業グリーの子会社、アウモ(東京・港区)への事業参画を決断した。23年7月のことだ。

徳島で暮らしてヒト・モノ・カネが循環すれば地方が活性化されて暮らしが豊かになることを実感した。自分が手掛けるビジネスが、歴史が浅いながらもエネルギッシュなアウモで生かせるのではないかと考えたのだ。

同社は「aumo」として国内最大規模のお出かけ情報(旅行や観光、ニュース、グルメなど)を開発・運営している。ユーザーは月間1700万人。急成長していて、さらに伸びる余地がある。Fintech事業部責任者に抜擢され取引先企業や自治体の集客、販促施策を中心としたデジタルマーケティング支援を主に担当している。