「学歴があればなんとかなる」という慢心

――本書では、ひきこもりになってしまった高学歴難民を持つ親の事例も紹介されています。世の中にはひきこもりの家族を支援する親はたくさんいますが、高学歴ではないひきこもりの家族を持つ親と、高学歴のひきこもりの家族を持つ親の違いはどこにあるのでしょうか。

高学歴のひきこもりの家族を持つ親は、「うちの子は優秀」という考えがどこかにあり、焦っていない場合があります。学歴があるからこそ、「支援を続けていれば何とかなるんじゃないか」と考えて、経済的援助を断ち切れずにいるようにも見えます。だからといって支援を続ければ、いつか希望の職につくことができる保障もありません。

また、ひきこもりの家族が暴力や暴言を許容するのも問題です。そうした状況のなかで、博士号を取得していながら30歳を過ぎても就職できなかった息子が、家庭内暴力を起こし、そうした暴力が犯罪へと発展した事例もありました。家族で問題を共有して話し合うことが事件を防ぐカギになるといえます。

高学歴難民と「教育虐待」

――本書の事例には、親が過度に受験勉強への圧力をかけるなど、「教育虐待」とも言えるケースが含まれています。高学歴難民と「教育虐待」に関係はあるのでしょうか。

深い関係にあると考えています。いまは昔と違って、高い教育費を投資しないと良い大学に進学できなくなっています。なので、子を高学歴にしたいと思えばお金が必要になりますし、親が必ず関与することになります。その結果、高学歴難民と教育虐待をする親の問題がセットで語られるケースが多くなっているのだと捉えています。

教育虐待をしている親世代が現役の頃は、学歴があって良い企業に入れれば、そのまま終身雇用で生活が安泰という時代でしたから、彼らにとって学歴は絶対的なものでした。ですが、終身雇用が当たり前でなくなった現代では学歴だけでは通用しないんです。そのことに気づかず、自分たちの時代の“勝ちパターン”を子どもたちにそのまま継承した結果、子どもを高学歴難民にしてしまうのでしょう。

写真=iStock.com/kieferpix
※写真はイメージです

以前、高学歴難民の息子を持つ母親から相談を受けたことがあるのですが、彼女は60代になってパートを始めてようやくお金を稼ぐことの難しさや大変さが分かったそうです。このことをもっと早いうちに子どもたちに教えてあげられていたら、彼らにも違った道があったのではないかと話していたのが印象的でした。