焦点が「人間」なら番組はぐっと面白くなる

※上から順に/チーフプロデューサー 鈴木真美●1983年慶應義塾大学文学部卒業、同年入局。「世紀を越えて」「グーグル革命の衝撃」「松田聖子」など代表番組は多数/チーフプロデューサー 角 英夫●1983年東京外国語大学卒業、同年入局。「変革の世紀」「激流中国」「プーチンのロシア」など大型企画を多数担当/チーフプロデューサー 安川尚宏●1986年京都大学経済学部卒業、同年入局。現在は「クローズアップ現代」を担当。代表番組は、「インドの衝撃」シリーズなど/チーフプロデューサー 井上恭介●1987年東京大学法学部卒業、同年入局。「敵対的買収を防げ~新日鉄・トップの決断」など代表番組は多数ある。

ところで、通常型のNHKスペシャルは次のようなプロセスで制作される。

まず企画の発案者自身が企画書を書き、事務局の審査を経たうえで、報道局や制作局などの実務者20人ほどが出席する「Nスペ提案委員会」に諮り承認を得る。そのうえで、幹部クラスが集まる「大型企画委員会」を通れば、正式に予算がつき番組づくりがスタートする。

企画を出すのは、角氏のような大型番組企画センターのCPだけではない。日本中のあらゆる職員がアイデアを出すことができる。企画案はA4一枚の企画書にまとめられ、鈴木氏ら百戦錬磨のCPが待ち受ける東京の事務局に送られる。

驚くのは、起案者が番組制作者になれるということだ。地方局の若手がその番組の制作期間だけ東京へ籍を移し、専門スタッフの力を借りながら大型番組を差配することもあるという。ただし、中間型である「マネー資本主義」には、この原則は厳密には適用されなかった。

通常型のNHKスペシャルでは一人のCPが一つのシリーズを統括し、シリーズ全体に統一感を持たせるケースが多い。だが今回は、精鋭たちが同じテーマを得意の手法で料理しようと手ぐすねを引いている。ならば、それぞれが技を活かし合って一つのシリーズに昇華させればいい。これが事務局の発想だった。

11月に開かれたセンター内部の「提案会議」では、角氏をはじめ経済や国際問題に強い6人のCPが、それぞれの全体構成案を持ち寄り披露しあった。いわば限られた放送枠を奪い合うコンペである。冗談めかして鈴木氏がいう。

「このときの僕の仕事は、たとえるならサバンナの水場に集まってくるライオンやヒョウを仕切る管理人のようなものでした。猛獣連中がみんな『水をよこせ(=番組をつくらせろ)』とやって来るから、たいへんでしたよ(笑)」