「自分なんかダメだ」より「俺はできる」

常にポジティブな言葉を使う。それは私が彼らに最初に提案したことのひとつでした。

積極的にポジティブな言葉を使うと同時に、ネガティブな言葉を極力使わないように指導しました。

それはなぜか。ポジティブな言葉は、人間の能力を引き出しやすくする力があるからです。一方で、ネガティブな言葉はいいパフォーマンスを引き出すことを困難にします。

私は生徒にこんな問いかけをしました。

「背中を丸めて、下を向いて、『自分なんかダメだ』とつぶやいてごらん。姿勢が悪いから肺が圧迫されて、どうしても大きな声は出せないし、途端に暗い気持ちになったよね。逆に、背筋を伸ばして、視線を少し上に固定して、『俺はできる』と大きな声を出してみたらどうだろう。なんだか元気が湧いてきたような気がしないかい?」

ポジティブな姿勢や言葉は、人間の能力を発揮しやすくすることが知られています。

ネガティブな言葉では体に力が入らない

オーリングテストと呼ばれる有名な実験があります。人間の体がいかに正直かということを示すテストです。

それは、「体に合わないものを近づけたり、体の異常のある部分に触れたりすると筋力は低下し、反対に、体に有効な薬剤などを与えると、筋肉の緊張が保たれ筋力も維持される」というものです。オーリングテストをすることで、体の中の異常部分を発見したり、有用な薬剤を判断することができます。

これを応用したテストを、生徒にふたりひと組で行ってもらいます。

ひとりには、親指と人さし指で、ある程度力を入れて“OK”のポーズのようにオーリングを作ってもらいます。そして、もうひとりには、図表1のように両手でリングを外そうとしてもらいます。親指と人さし指にどれだけ力を込めたとしても、両手の力でそのオーリングを外そうとする力には勝てません。ですから、もうひとりの方には、どのくらいの力でオーリングが外れるのかを最初に確認しておいてもらうのです。

出所=『慶應メンタル

そして、テスト開始です。まず、オーリングを最初と同じ力で作ってもらってから、“ありがとう”と言い続けてもらい、両手でオーリングを外そうとしてもらいます。すると、先ほどと同じ力ではリングを外そうとしても、不思議なことに解けないのです。ところが、同じようにオーリングを作ってもらい、今度は“もうダメだ”と言い続けてもらい、両手でオーリングを外そうとすると、あっという間にオーリングが外れてしまうのです。

まったく力を抜いたつもりはないのに、ネガティブな言葉を発すると、不思議なことに力が抜けていくのです。