不正の関与率は「部長クラス」がもっとも高い

また、個人の不正リスク要因として注目したいのは、「昇進・昇格の見通し」である。つまり、個人的に優秀で出世競争でリードしているような個人は、不正に対して甘い認識を持ちがちだということだ。

そこで、役職と不正の関与率(目撃含む)を見てみても、一般社員より係長、課長が高く、部長相当でピークになっている。これらは、冒頭に挙げた2社における役職者による不正ケースとも符合する傾向である。

調子に乗りすぎる「エース人材」の落とし穴

個人の不正リスクをさらに深く理解するために、不正に対する意識面からも分析してみた。個人の不正許容度と相関の高い意識は、自分で不正を制御できると感じる「コントロール幻想」や、誰かのために不正をすることを許容する「利他的不正」までいくつかの要素が明らかになっている。

こうした個人の不正に対する意識と組織特徴との関連を、矢印で影響関係を示したのが図表4である。

本稿の関心から注目すべきは、右側の要素だ。優れた自社サービスがあったり、昇進見通しがあるといった、組織や個人がポジティブな状況は、「不正へのスリル・快感」へのプラスの影響が見られる。こうした「調子のよい」状況で自己効力感が高まり、不正への罪悪感が薄れてしまうことが示唆される結果だ。

さて、組織や個人がポジティブな状況において、不正リスクが上がってしまうという傾向が見えてきた。業績が良く、スピード感をもってサービスを展開しているようなとき、その裏では「優秀なエース人材」による不正が生まれやすい風土が醸成されている可能性が示されたのだ。企業としては、どうやってこのような個人の暴走を防げるのだろうか。