農地の流動化が進まず、後継者もいない

農地が減る理由は、一般的に次の2つが考えられる。農家の農地に対する所有意識が強すぎて貸したがらず、農地の賃貸借や売買が行われる「農地の流動化」が進まないこと。そして、そもそも農業が儲からなくて農地の引き継ぎ手がいないこと。沖縄ではこの2つがどちらも課題となっている。

県内のJAグループを代表する機関であるJA沖縄中央会(那覇市)の会長を務める普天間朝重さんは、こう説明する。

「サトウキビの8割、肉用牛の7割という具合に、沖縄農業の重要な部分は離島が担っている。今の環境では、離島で担い手への農地の集約が進まないので、県全体でみても集約が遅れている」

進学や就職を機に離島を離れる人が多く、「親が農業をやめるとなったら、沖縄本島にいる子供が逆に親を呼び寄せる。将来の離農が見えている農家は、投資も規模拡大もできない」(普天間さん)

かたや、沖縄本島でも新たな道路や観光施設などの開発が続き、「農地の流動化がなかなか進まない状況」(普天間さん)にある。農地が転用されたり、転用を期待して売買や賃貸借が滞りがちになるからだ。

2万4916円の生産費に対し、買取額はわずか5851円

もう一つの課題である農業が儲かりにくいことに関して、「付加価値の上げ方として、沖縄県でどういうことが考えられるんですかね」と尋ねたところ、沖縄の農業はサトウキビが中心になるとしたうえで、こんな答えが返ってきた。

「サトウキビは砂糖の原料作物として生産されていて、製糖工場が島に1つずつしかないなど制約が多く、独自に工夫しようとしてもなかなか難しい」

普天間さんがこう話すように、サトウキビは極めて制約の多い作物だ。農家の手取り収入は、実質的に政府が決めている。

2021年産のサトウキビを例に、1トン当たりの収支を見てみよう。

農水省によると、同年の生産費の平均は2万4916円だった。

サトウキビ農家は、生産量や糖度に応じて原料糖の代金を受け取る。沖縄県でその価格を決めるのは、JA沖縄中央会である。同会の組合員であるJAおきなわ(那覇市)は離島で6つの製糖工場を運営し、農家からサトウキビを買い取る。中央会が国際相場に基づいて決めた原料代は5851円で、生産費を大幅に下回る。国内外で生産コストに雲泥の差があるからだ。対して政府が支払う「生産者交付金」は1万6860円で、両者を足した農家の手取り額は2万2711円。

手取り額は過去最高額となったが、それでも2205円の赤字となる。交付金の算定基準が効率的な農家であるだけに、生産コストを抑えないと利益を出すことはできない。サトウキビは平均的な農家にとって儲からない作物になっている。原料代は農家の手取り収入の4分の1に過ぎない。残りの4分の3を占める交付金こそ、重要になる。

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その農家の手取り収入を実質的に決めているのは政府、なかでも自民党だ。農水省は例年、交付金単価を同党の「野菜・果樹・畑作物等対策委員会」で示し、了承を得る。

普天間さんは、中央会を含むJAグループや団体で構成する「沖縄県さとうきび対策本部」の本部長という顔も持つ。農水省や自民党に交付金単価の引き上げを陳情する立場だ。

農水省は、沖縄で単価の引き上げを望む声が強いことをどう受け止めているのだろうか。サトウキビを担当する地域作物課は「生産する地域から、交付金を上げてほしいという要望は承っている。その額は基本的には、生産費と原料代の差を補うことで再生産を可能にするという、『糖価調整法』のルールに基づいて算定していくもの」と説明する。