「本当の壁」に当たって気づいたこと

私自身もこれに似た苦い経験があります。あるスポーツクラブのトレーナーを7年務めた後、私は14年前に初出店を果たしました。そして、地域の人に向けて無料体験キャンペーンを打ち、20人が来てくれました。

スポーツクラブ時代は、体験で来た方の9割9分がその場で入会されていたので、「自分が店を開けば、絶対、リピート客になってくれるだろう」と、私はタカをくくっていました。

ところが、いざふたを開けると、9割9分はおろか、次の予約をしてくれた人は1人もいませんでした。出店に向けて1年間入念に準備し、人生をかけて挑戦しようと起業したのにまさかこんな結果になるとは……。

世の中から自分が全否定されたようで、夜も眠れないほど落ち込みました。よく考えれば、以前は勤めていたスポーツクラブの「信用」という後ろ盾があったのです。さらには、トップトレーナーでしたから、「僕にはこの時間しか枠がないですよ」という希少性をアピールすることで、体験者のほとんどを獲得することができていました。

しかし、自分がお店を出したら、当然ですが、最初は顧客ゼロです。お客さまがいないのに、トップトレーナーも何もありません。希少価値も打ち出すことなどできません。

さらに、そのとき体験に来た40代とおぼしき女性のお客さまに言われたひと言は、生涯忘れられません。

体験レッスンが終わり、「ここのお店って、どういう人がターゲットなの?」と聞かれ、私は、「30代、40代の一般的な女性です」と答えました。すると、「だったら、トイレの便座ぐらい下ろしておいたほうがいいんじゃないの?」と。お恥ずかしい話ですが、それぐらいお客さま目線になることすらできていなかったのです。

写真=iStock.com/Kobus Louw
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ではこのとき、私はどうするべきだったのでしょう? もちろん、店が認知されるためにも集客は必要です。しかし、無料や割引といった小手先だけの集客方法で、お客さまが「また来たい」と思ってくれるとしたら、答えはNOです。

それよりも、集客した大切なお客さまをどうやって次につなげていくか、「どんな接客をするか」、そこに注力すべきだったのです。

つまり、接客の仕方がスモールビジネスの運命を決めるわけです。本書でお伝えする「ボンディング接客術」(※)を事前に知っておくことで、あなたもリピート顧客を見つけ出すことができるはずです。当時の私より断然有利です。だって、「ボンディング接客術」を事前に知っているからです。

(※)接客の秘訣ひけつは「顧客と確実に心のきずなをつくること」と考える著者が接着剤の「ボンド」にたとえた造語。

次の項目では、スモールビジネスにおいてとりわけ重要な「市場選び」について、話を続けます。