90代男性誤嚥死亡で2365万円賠償の衝撃
2023年11月7日、あるローカルニュースに医療・介護関係者は騒然となった。
広島県の介護施設に入所していた90代男性がゼリーを喉に詰まらせて窒息死した事例をめぐる裁判で、「死亡したのは施設職員が男性の誤嚥を防ぐ義務を怠ったことなどが原因」として、介護施設に2365万円の支払いを命じる判決が下ったのだ。
裁判長は、「ゼリーを配る職員は他の利用者に配膳し、男性が誤嚥する様子を見ていなかった」とした。「職員らが食事の介助などの措置を講じていれば防げた」とした上で「誤嚥を防止する措置を講じる義務を怠った責任は極めて重い」と指摘。原告である長男は「施設の責任が認められて良かった。父の死を無駄にせず再発防止を徹底してほしい」と望んだ。
SNSでは反論だらけ
愛すべき老父を亡くした長男としては、せめてもの慰めとなったと思われるこのニュースに対し、X(旧ツイッター)はどう反応したのか。主だったコメントは以下のようなものである。
・「防げた」と断言した裁判長は「90代の誤嚥を防ぐ方法」を示せ
・認知症高齢者は食事禁止で胃瘻(胃に穴をあけて栄養剤を注入して生命維持)しかない
・介護士がますますいなくなる
意外なことに判決に賛同したり、施設側を責めたりするコメントは私が検索した限り(執筆時点)では見当たらなかった。同僚の医師にも、判決内容を否定的に捉える向きが多かった。
2023年8月にも、名古屋市の特別養護老人ホームでパンを誤嚥して死亡した88歳男性に対して、施設側の安全配慮義務違反を認めて2490万円の支払いを命ずる、というニュースが報道されたばかりである。
日本人男性の平均寿命(81歳)を超えた認知症高齢者の死亡であっても「職員らが見守りを怠ったのが死因」と司法判断され、約2500万円という高額判決に介護関係者は騒然となったが、今回はさらに上の90代男性ということで、衝撃を受けているのは医療介護関係者だけではないのではないか。