「今さら友達をつくろうとは思えない」という大人

そんな努力は自分にはとてもできない、と思った人もいるかもしれない。また、孤独感や寂しさを感じていても、自分のやり方は変えられないと思っているかもしれない。昔からなじんだやり方を変えるのは難しい。それに、内気だったり、群れることが嫌いだったりと、人付き合いが難しくなる心理的な壁は誰にでもある。今さら手遅れだと考えている人もいるはずだ。

だが、そう思っているのはあなただけではない。我々の研究の被験者にも、大人になると友人関係のあり方は変えられない、という考えを繰り返し口にする人はたくさんいた。孤独だと言ったあと、「人生はそういうものだから」とか「忙しくて友人付き合いの暇がなくて」といった発言が続く。質問票に書き込まれた回答からも、そんなあきらめの声が聞こえてくることがある。

アンドリュー・デアリングもそんな被験者の1人だった。心の底で、自分の人生は決して変わらないと思い込んでいた。多くの人のように──あなたもそうかもしれないが──もう手遅れだと決めつけていた。

仕事にしか幸せを見出せなかった孤独な男性

アンドリュー・デアリングは、本研究の被験者の中でもとりわけ苦労の多い、孤独な半生を生きてきた。母子家庭で育ち、子どもの頃に引っ越しを繰り返したため、長い付き合いの友人ができなかった。

ロバート・ウォールディンガー、マーク・シュルツ『グッド・ライフ 幸せになるのに、遅すぎることはない』(&books/辰巳出版)

大人になってからもよい友人をつくるのに苦労した。34歳で結婚したが、妻はアンドリューの生活にあれこれと口を挟み、人付き合いを嫌った。妻は誰とも会いたがらず、夫が誰かに会うのも嫌がった。2人で外出することはなかったし、人が訪ねてくることもめったになかった。彼にとって、結婚生活は人生最大のストレスの一つだった。

幸せを感じられたのは、仕事だけだった。アンドリューは時計の修理職人だった。振り子時計や鳩時計を分解し、また動くようにする仕事は楽しかった。客は、古い時計にまつわる家族の思い出を語ってくれたし、客の家宝を蘇らせるのは幸せな仕事だった。

50代後半になった頃、質問票にあった引退予定を尋ねる質問に、彼はこんな回答を寄せた。「はっきりとはわかりません。8歳のときから働いてきました。仕事があるから生きてこられた。引退は人生の終わりのように思えます。だからずっと仕事を続けたい」