今のところは米国と足並みをそろえているが…

とはいえ、2024年の米大統領選で政権交代が実現し、共和党政権となった場合、米国のメタン排出削減行動計画は軌道修正されるのではないだろうか。

基本的に、共和党政権は「小さな政府」路線であり、健全財政をよしとする。それに、最悪期は脱したとはいえ、先行きも高インフレが続けば、共和党政権ならば歳出削減を進めるはずである。

他方で、米国第一主義を掲げるドナルド・トランプ元大統領が再選したり、あるいはトランプ元大統領の考えに近い候補が当選したりした場合は、バイデン政権が立案したメタンの排出量削減計画は抜本的に見直されることになるのではないか。

場合によっては、メタンの排出量削減計画そのものが放棄されることも、十分にありえる展開だ。

そもそもEUのメタン削減計画は、2019年に発表された「欧州グリーンディール」に基づき、2020年10月に発表されたものである。

トランプ前政権時代の米国はEUの温暖化対策の方針に対して距離を置いていたが、2021年1月にバイデン政権が誕生したことで、米国はようやくEUと足並みを揃えるようになったという経緯がある。

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ロシアのウクライナ侵攻で事情は変わったのに…

それにEUのメタン削減計画は、2022年2月に発生したロシアのウクライナ侵攻以前に発表されているが、計画の発表当時と比べて、EUの天然ガス事情は様変わりしている。

パイプラインを通じてロシア産の安価なガスを調達出来なくなったため、EUは米国など第三国から液化天然ガス(LNG)の輸入を増やさざるを得なくなっている。

EUでは、天然ガスの価格の動きが物価の安定を大きく左右する。そのため、需要家であるEUと供給者である米国の関係は、本質的に米国が有利な立場である。

不利な立場のEUが、自らが主導するかたちで、有利な立場の米国に対して、天然ガスの生産に伴い発生するメタンの削減を要求することができるのか、素朴な疑問に突き当たる。