今日は「5番」が名前の代わりになる

室内には二人がけのソファが10近く並べられている。私は窓に面した「5番」と掲げられたソファに案内された。隣との間にはついたてがあり、周囲は気にならない。

「女性は左側にお座りください」

受付の女性が言い、私は赤色のソファに腰かける。お尻が沈み込むほどふかふかだ。

写真=iStock.com/piovesempre
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「こんにちは、お隣失礼します」

赤色ソファに座ってすぐ、グレーのスーツ姿に身を包んだ男性が声をかけてきた。濃紺のネクタイがよく似合い、シルバーの細フレームのメガネをかけている。第一印象で、素敵な人だなと感じた。

男性はおじぎをして私の右隣に座ろうとする。

「よろしくお願いします」

ソファのやや左に自分の身を動かしながら私も頭を下げる。この男性も私も、今日は「5番」という番号が名前の代わりになる。自分のスマホでパーティのサイトにアクセスし、5番の男性をチェックする。名は田中さん、年は50歳。地方公務員で年収800万。婚姻歴は「あり」。私と同じ再婚希望者ということだ。確かに今も、結婚していそうな雰囲気が漂う。

「結婚したい」というアピールが恥ずかしかった

しかしそれよりも、この時自分が大失敗をしたことに気づいた。田中さんを含めて本日参加している男性10人はどの人も丁寧に自己紹介文を書いている。婚活をしている理由や、結婚したら行ってみたい場所、休日の過ごし方、仕事内容など――。一方、私は年齢や婚姻歴などのプロフィール項目は埋めているものの、自己紹介文は一文字も書いていない。「結婚したい」というアピールをしているようで恥ずかしかったのだ(今振り返ると、なんてつまらない見栄だと思う)。

同性である女性のプロフィールを見ることはできないが、男性がこれくらい丁寧なのだから、きっと皆しっかり書いているのだろう。けれどもこれらは事前に登録するものなので、いま自己紹介文を書くことはできない。

「トークタイム」が始まった。

今日は一人あたり8分。一番初めの田中さんとのトークはとても楽しく、仕事の話を中心に盛り上がった。そのほか9人の男性、誰と話しても「つまらない」ということはなかった。私も「自己紹介文なし」を挽回するべく、懸命に話した。

男性だけが移動する形で全員の異性と話して、また元の席に戻って投票タイム。一周して戻ってきた田中さんが「いやはや誰が誰だか……」とつぶやく。そして「疲れましたね」と私に笑いかけてくる。やっぱり素敵な人だなと思う。