いっこうに終わらない熾烈な競争

運良く大企業に就職できてからも、さらに競争は続きます。

韓国労働者の年間労働時間はOECD加盟国の中でもトップクラスで長く、また出世争いともなれば相当に厳しいものがあります。その上、韓国の企業では平均49.4歳で退職を迫られるといわれています。韓国の年金制度はまだまだ十分ではないため、若くして会社から追い出された人たちは、再就職するか起業するかしてさらに稼ぎ続けることが求められ、またもや熾烈しれつな争いに巻き込まれていくのです。

いっこうに終わらない競争を強いられ続けた結果、心を病む人は顕著に増えてきています。ある調査によると、韓国人サラリーマンの90%以上が、怒りやストレスを溜めこんでおり、そのうちの多くが韓国人特有の精神疾患「火病(ファッピョン)」にかかったことがある(*3)と報告されました。特に新型コロナウイルスの感染拡大以降は、精神疾患を抱える人が急増しています。

ストレスの原因は、競争社会以外にもたくさんあります。女性の場合、男女差別も生きづらさの一因になっています。韓国は今も儒教の影響が根強く残っているため、職場には男性の方が早く昇進して給与額も高く、たとえ能力が高くても女性は待遇が悪くて当たり前という風潮があります。

(*3)J-CAST ニュース:韓国人サラリーマン、90%が「精神疾患」 原因は職場のストレス、日本は大丈夫なのか 2015年1月29日

写真=iStock.com/mapo
※写真はイメージです

韓国人の生活を大きく変えた「IMF経済危機」

世界経済フォーラムが毎年発表している「ジェンダー・ギャップ指数」によると、2023年の韓国の順位は、調査対象146カ国中105位(*4)。2022年のデータですが、男女格差が最も大きいのは「経済的機会」の分野で、特に男女の管理職の比率と所得格差では、調査対象国で最低レベルでした(*5)。家庭の中にも男女格差は強く生き残っており、家長の父親が最も偉く、娘の立場は一番低いとされています。また結婚後も、夫が妻に暴力を振るうケースが後を絶ちません。女性たちはこうした状況に対し、強い不満を感じているのです。

韓国人のストレスについてお話しする前に、韓国人の生活に大きな転機・変化をもたらした、「IMF経済危機」について触れておきます。1997年に起きたこの経済危機は、アジア全域に広がりました。

その影響は、日本にも及び、この年、北海道で唯一の都市銀行だった北海道拓殖銀行と、大手証券会社の山一證券が相次いで経営破綻しました。都市銀行や大手証券会社が破綻することは、当時の日本人にとってまさに想定外でした。その衝撃を覚えている人は、今でも少なくないはずです。

ただし、この経済危機は日本社会を変えるほどではなく、このとき受けた傷は比較的小さかったと思います。少なくとも、その後見舞われた東日本大震災に比べれば、社会的影響は大きくはありませんでした。一方、韓国側の影響はきわめて深刻だったのです。

(*4)朝日新聞デジタル・SDGs ACTION!:【ジェンダーギャップ指数】日本、2023年は世界125位で過去最低 政治・経済改善せず 2023年6月21日
(*5)hankyoreh Japan:依然として深刻な韓国の「男女格差」…男女の所得格差「世界最下位圏」 2022年7月14日