一日の中で変わる価値観

このように移動中の人に情報を与えることでターゲットとなる人の行動を変えさせるということがやりやすいということは見えているが、次に難しいのは情報の提供をより「タイムリー」に行う必要性が高いということである。第3回でも述べた通り、これまでは静的なデモグラフィックに生活者を捉えていた時代が長く続いたため、「一人の人間の価値観は一日中ずっと同じである」という前提があった。しかし現実の人間は一人の人間でも時間によって金銭感覚も変わる。

例えばランチの時間に980円のA定食と1200円のB定食があるとB定食はとても高く感じるだろう。しかし同じ人間がその日の夜飲みに行ったときに980円と1200円の差は感じずにどんどん頼んでしまう。誰といるかも大事である。友人とは安い居酒屋でも、大好きな人とデートをしている男子であれば奮発して高級レストランに入ってしまうかも知れない。人間の意思決定はその時の時間や一緒にいる人などの状況に応じて変わるものであるため、よりダイナミックに一人の人間の置かれている状況に応じた情報提供を行う必要性が出てくる。

スマホは睡眠時以外の24時間情報に接触することが可能だが、M(記憶)よりもA(行動)を促しやすい分、適切なタイミングで無ければそのまま忘れ去られる可能性も大きい。それはPCのメルマガが一日ぐらいは読まれる可能性があるが、携帯のメルマガは瞬間に反応され、時間が経つともう読まれなくなるという事実から推測できる。PCの世界では自分で情報を探したり調べたりという、Googleに代表される検索という行為にいかに適切にマッチングさせるかがとても重要であったが、移動者はその人の居る場所や、時間、その日の天候、使っているアプリなどの情報をなるべく把握し、第3回で述べたような行動情報分析から生活者が受け入れやすい情報を与えてあげることがPC以上に重要になる。例えばTabというアプリは自分の興味のある情報をチェックしておくと、自分が移動中にその情報の近くに来ると「近くにあなたの興味のあるこの情報があります」とお知らせしてくれる。まさにM(記憶)しておく必要が無い。

tab
http://tab.do

PC上での検索は非同期性が高い検索であるため、明日のランチなのか、明日の飲み会なのかはその人に検索条件を絞り込んでもらいながら、というスタイルであったが、スマホの場合はリアルタイム性が高いため、ランチを考えている12時近くの人にランチ情報は歓迎されるが、夜2次会の飲み屋を探している人にランチ情報を提供しても邪魔なだけであるため、場所、時間などの情報からの自動的な絞り込みはとても有効に働く。移動者マーケティングは面倒くささを省くコンシエルジェ的気配りの利いた情報提供を行う必要性も高いと言えるだろう。